聴覚障害者の生活訓練 −社会生活技能訓練プロジェクトケース−

更生訓練所 会田 孝行・渡邊 雅浩・森本 行雄・小熊 順子

 生活訓練課では、視覚に障害を持つ入所者を主として生活訓練を実施しているが、聴覚に障害をもつ入所者に対しても、コミュニケーション能力の向上を目的とした手話訓練や日常生活の中で必要な知識獲得のための算数、国語の学習指導を実施している。
 一般的に聴覚障害者は、社会生活を送る上でコミュニケーション面だけが課題と思われがちであり、生活訓練が必要ないかのように思われている。しかし、生活習慣、社会活動、身辺動作、健康管理、対人技能などの社会生活技能の獲得が必要な聴覚障害者がいるのも現実である。
 今般、職業・職能訓練を目的に入所した聴覚障害者に対し、社会生活技能訓練プロジェクトケースとして社会生活技能向上を目的に、生活訓練を実施した一例を報告した。このケースは、社会活動(未経験により交通機関の利用ができない、金融機関の知識がない、利用ができない)、身辺動作(必要な日用品の購入や冷暖房機器などの利用ができない、調理に関する知識がない)対人技能(自己決定、自己主張ができない。他者とのかかわりをもとうとしない)の点が課題とされた。上記の要因には、家族が必要以上に手を出し、本人の経験不足が助長されたこと、いじめを受けた経験から対人関係がうまく築けなかったこと、聴覚障害ゆえに情報獲得が困難であったり、周囲とのコミュニケーション不足があったことなどが考えられる。本人及び家族のニーズを取り入れ、訓練項目を設定し、まず知識を獲得させ、切符購入、日用品購入、生活用具の使用、調理などを実際に体験させ、生活訓練を実施した。その結果、ニーズに合わせた交通機関の利用や必要な金融機関の利用、日常生活器具の利用が可能となるなど一定の訓練効果が見られた。
 この事例はあくまでも一例であるが、他にも社会生活の面で何らかの課題をかかえる聴覚障害入所者も存在する。そのために聴覚障害入所者に対して、社会生活技能向上を目標とした生活訓練の必要性が高いと思われる。今後、聴覚障害者に合わせたスキルトレーニングの内容を充実させることにより、聴覚障害入所者が終了後により円満に社会生活を送ることができるように支援していきたい。




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