〔研究所情報〕
RESNA(北米リハ工学カンファレンス)参加報告
研究所 福祉機器開発部 井上 剛伸


 6月5日〜8日にカナダのトロントで開催された、北米リハ工学カンファレンス(RESNA Conference)に参加してきました。このカンファレンスは、毎年北米で開催されているものですが、今年はトロントリハビリテーション研究所が中心となって4年に一度開催する、FICCDAT(Festival of International Conference on Caregiving, Disability, Aging and Technology)の中に組み込まれる形で開催されました。FICCDATは関連する6つのカンファレンスを同時期に同じ場所で開催するという試みで、今回で2回目になります。また、RESNAカンファレンス自体は、国際リハビリテーション協会(Rehabilitation International)の機器とアクセシビリティーに関する国際委員会(ICTA:International Commission on Technology and Accessibility) との共催となっており、国際色が強調されていたように思います。参加者は36各国から1,200人を超えましたが、日本からは、私を含めて5名程度だったと思います。福祉機器の企業展示も行われ、その数は85社を数えました。
 私自身は、ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)に関する研究成果をポスターセッションで発表し(写真1)、関心のある多くの方と意見交換をすることができ、今後の研究に活かせる多くの知見を得ることができました。何より、発表中の写真がカンファレンスのニュースレターに載ったのにはびっくりしました(写真2)。
 その他の発表で印象に残ったものでは、電動車いすの訓練に関する技術開発とその現場運用に関するワークショップがあります。このワークショップは、スェーデン人とカナダ人の共同主催で、特に子供と認知機能の低下した高齢者を対象とした訓練サポート機器に特化したものでした。日本の補装具費支給制度などでの確実な本人の認知機能を担保した上での使用から、一歩進めた電動車いすの使用の検討が始まっている予感がしました。日本でも、電動三輪・四輪車の事故対策の検討で、問題提起だけはされていますが、まだまだ解決策が見つからない分野でも有り、今後のこの分野の進み具合は、積極的に見ていきたいと思いました。また、ピッツバーグ大学とカーネギーメロン大学で共同で進めているQOLテクノロジのプロジェクトでは、特別セッションを組み、多くの発表がなされていました。世界中が注目する大きなプロジェクトで、多くの若手研究者や学生が加わっており、この分野の大きなムーブメントを作っていることを感じました。最近福祉機器開発部でも取り組み始めた、先端的な技術と福祉機器の融合を考えるプロジェクトで、学ぶことも多いとともに、負けてはいられないという意識に駆られる自分がいました。
 機器展示で目を惹いたのはJACOというモントリオールの企業で開発した肢体不自由者用のロボットアーム(写真3)。これまでのロボットアームとは異なり、ロボットアームの機構を意識させない自然な感覚でアームを操作して、いろいろなタスクを行うことができます。デモでやっていた、コップの水を飲む動作を実際にやらせてもらいましたが、ジョイスティックを使ってスムーズに操作することができ、これならば実用になるのではとの予感を覚えました。ただ、金額はまだまだ高く、400万円程度。日本にはまだ代理店がありません。各国の専門家もこのブースには集まっていましたので、今後の普及に期待がもて、低価格化にも望みがあるように思います。現在、厚生労働科学研究費で実施している、肢体不自由者用ロボットアームのコスト・ベネフィット評価の対象にしたい製品です。
 今回のカンファレンスの期間中に、トロントリハビリテーション研究所で新たに設置した、シミュレータ・ラボの見学に行くことができました。地下に広いスペースが有り、直径6mのシミュレータが3機用意され、歩道の環境や、冬期の路面の環境、階段など、いろいろな環境を模擬的に再現できます(写真4)。その中で、福祉機器の評価や開発のための実験を行うとのことです。トロントから、目が離せません。

写真1 ポスター発表   写真2 ニュースレターに取り上げられました
写真1
ポスター発表
  写真2
ニュースレターに取り上げられました

写真3 JACO ロボットアーム   写真4 トロント・リハビリテーション研究所のシミュレータ
写真3
JACO ロボットアーム
  写真4
トロント・リハビリテーション研究所のシミュレータ