〔病院情報〕
視覚障害者用補装具適合判定医師研修会について
病院 第二診療部 眼科医長 西田 朋美


 視覚障害者用補装具適合判定医師研修会は、視覚障害者の補装具適合判定に従事する医師を対象に、平成3年度から学院で開催されている研修会である。判定技術の向上、医学的リハビリテーションの推進が主なる目的であるが、これに加えて、ロービジョンケアをこれから始める眼科医師に役立つ内容が、近年のプログラムの随所に盛り込まれている。本研修会は、平成18年度のみ開催されなかったが、開催初年度から毎年1回のペースで定期的に開催されてきた。また、平成17年度までは、月曜日から金曜日までの平日5日間で開催されていたが、仲泊聡第二診療部長(前第三機能回復訓練部長)が着任した平成19年度からは水曜日から金曜日までの平日3日間での開催となり、研修会期間が短縮された。研修会の定員は、毎回原則20名であり、現在までのところ、本研修会修了者は全国で延べ300名を超えた。平成22年度は、過去最多の31名が受講した。歴代の研修会修了者は、数ヵ所の都道府県を除いて北海道から沖縄まで全国に渡り、年代も20代から80代と幅広く、勤務形態も大学・一般病院勤務医、開業医とバラエティーに富んでいる。
 近年、眼科領域におけるロービジョンケアの重要性が注目されている。病状によっては、最先端の治療を行っても、視機能が低い状態で病状が落ち着くことがある。人は情報の80%以上を視覚から得ていることを考えると、視機能をうまく活用できないということは、患者の大きな喪失感にもつながりかねない。甚だ残念なことだが、これまで、世の中の大多数の眼科では、このような患者に対し、「落ち着いている」、「変わりない」という言葉のみで診療が終わることが圧倒的に多かった。しかし、患者の大半は、病状が落ち着いていても、見えにくいために読み書きに不自由を感じ、単独歩行が難しくなり、家庭や職場で困ることが増え、中には職を失う人もいるというのが現実だ。患者にすれば、受傷直後の最初の情報源は、眼科医師である可能性が高く、眼科医師がロービジョンケアを知る・知らないで、その患者のその後が大きく変わっていく可能性がある。近年は、眼科医療機関でロービジョンケアの専門外来を開設するところもあり、日本ロービジョン学会も設立され、一昔前よりは状況は好転していると考えられるが、いまだに十分とはいえない。当センター眼科・ロービジョン訓練は、本邦におけるロービジョンケアの草分け的存在であり、眼科医師、視能訓練士、生活訓練専門職、ソーシャルワーカーなどの各専門職が在籍し、患者を中心としたチームを形成することができる。しかし、一般的な眼科医療機関で、これだけの専門職を擁し、かつ診療報酬もないロービジョンケアに時間を割くということは非常に困難であることが多い。せめて、該当患者にロービジョンケアを導入するきっかけだけでも眼科医師が担うことができれば、ロービジョンケア対応可能な他施設と連携を取りながら、患者はロービジョンケアを受けることが可能になる。したがって、より多くの眼科医師に本研修会を通してロービジョンケアの基本を学ぶ機会を提供し、ロービジョンケアを知ってもらうことは、当センター眼科・ロービジョン訓練スタッフ一同の責務ともいえる。しかし、現状ペースの開催では、受講修了生を可及的に増やすことは難しく、以前より、本研修会の年度内複数回開催と地方での開催を提案してきたが、今年度、初めてそれが実現されることになった。当初、8月に学院、平成24年2月に神戸視力障害センターの予定だったが、震災に伴う節電対策のため、急遽、日程を入れ替えて開催することになった。結果として、平成23年8月3日〜5日まで、神戸視力障害センターで開催された。急な変更による広報不足の影響もあり、結果として計14名の参加と定員割れの状態だったが、受講生のほとんどが西日本からであり、地方開催の継続を改めて期待する声が多く聞かれた。神戸開催に関しては、神戸視力障害センターの関係各位に多大なご協力を賜った。この場を借りて、厚く御礼申し上げたい。
 3日間の研修会内容は、昨年度から大まかな骨子が決まった。1日目は、視覚障害の概要、補装具概論、自立支援局の見学、ロービジョンクリニックファーストステップ、実習(偏心視、近見チャート+プラスアップ眼鏡、遮光眼鏡、ガイド、疑似体験)で、総論と実習がメインとなる。2日目は、義眼、白杖と白杖歩行、日常生活用具、弱視眼鏡、実習(白杖、単眼鏡、かけ眼鏡式弱視眼鏡、拡大読書器、便利グッズ、音声パソコン)、教育・社会リハビリテーション、患者が望むことで、当事者である患者本人の話を拝聴する。3日目は、診断書等の書き方、擬似症例の実習で、最後に研修会全体を含めた総合討論が行われ、閉講式となり、全課程を修了した受講生には、修了証書が授与される。朝から夕方まで、昼休みも少なく、大変タイトなスケジュールだが、1日目、2日目とペアやグループでの実習が含まれ、研修会終了後の懇親会もあり、日を追うごとに受講生同士のつながりも深まっているようだ。
 また、近年の新たな試みとして、卒業生の会と称し、研修会最終日の翌日に、歴代の本研修会修了生を対象とした会を開き、実際にロービジョンケアで困ったことや新しい話題など、情報刷新の場を作っている。この会も、全国から参加者が集まり、毎回、お互いに率直な情報交換を行い、眼科医師による新たなロービジョンネットワーク形成が可能な貴重な場となっている。
 次回の研修会は、平成24年2月22日〜24日に学院で開催予定である。本研修会修了生を礎に、全国で患者がロービジョンケアを受けやすくなる環境を作っていくため、眼科・ロービジョン訓練スタッフ一同、少しでも受講生の満足度が高い研修会を目指し、今後も努力を重ねていきたい。


視覚障害シミュレーションゴーグル装用下での屋外歩行。見えにくいために、歩行が困難になる疑似体験ができる。(平成23年8月 神戸視力障害センター屋外にて)    研修会終了後、受講生、スタッフとの集合写真。(平成23年8月 神戸視力障害センター正面玄関にて)
視覚障害シミュレーションゴーグル装用下での屋外歩行。
見えにくいために、歩行が困難になる疑似体験ができる。
(平成23年8月 神戸視力障害センター屋外にて)
  研修会終了後、受講生、スタッフとの集合写真。
(平成23年8月 神戸視力障害センター正面玄関にて)