網膜色素変性症の原因遺伝子探索


網膜色素変性症とは?

 網膜色素変性症は、夜盲に始まり、視野狭窄や視力低下、そして最終的には失明に至る恐れのある進行性の遺伝子疾患です。当センターを含め全国の障害者施設に入所している視覚障害者の中で最も多いのが網膜色素変性症の患者さんです。海外では、この疾患を引き起こす原因遺伝子がすでに数十種類報告されています。このように多様な遺伝子が原因となりうる疾患であるため、まだ多くの未発見の原因遺伝子が残されていると考えられています。一方、日本人患者の原因遺伝子は、まだほとんどわかっていません。そこで当センター病院眼科外来に来院された網膜色素変性症患者の方々の協力を得て、日本人患者の原因遺伝子探索を実施しています。原因遺伝子が分かって診断法が確立されれば、病気の進行の程度が予測できるようになり、ロービジョンケアの現場でのリハビリテーションに活かすことが出来ます。また将来的には遺伝子治療法の開発につながることが期待されます。

疾患原因遺伝子の変異スクリーニングとSNP解析

 網膜色素変性症患者68名と対照晴眼者68名から血液の提供を受け、これからゲノムDNAを抽出しました。既知原因遺伝子および新規原因遺伝子候補の遺伝子座の塩基配列を決定し、変異の有無を調べました。さらに一塩基多型(SNP)を求め、この領域のハプロタイプを推定しました。12種類の既知原因遺伝子について、変異スクリーニングを行った結果、6種類の病因変異候補を同定しました。一家系に、確実に病因変異と考えられるPRPF31遺伝子のスプライシング部位の変異を見出しました。

EYS遺伝子に変異を発見

 2008年、欧州で常染色体劣性網膜色素変性症の原因遺伝子として同定されたEYS遺伝子の変異スクリーニングを行ったところ、日本人に特有の7種類の変異を見いだしました。その内、二つの短縮型変異は複数の患者に見られ、創始者変異であることが分かりました。また、これらの変異の型と病気の予後との間に関係がある可能性が示唆されました。

原著論文

Ando Y, Ohmori M, Ohtake H, Ohtoko K, Toyama S, Usami R, O'hira A, Hata H, Yanashima K, Kato S.
Mutation screening and haplotype analysis of the rhodopsin gene locus in Japanese patients with retinitis pigmentosa.
Mol Vis. (2007) 13:1038-44.

Iwanami M, Oshikawa M, Nishida T, Nakadomari S, Kato S.
High Prevalence of Mutations in the EYS Gene in Japanese Patients with Autosomal Recessive Retinitis Pigmentosa.
Invest Ophthalmol Vis Sci. (2012) 53:1033-1040.

プレスリリース


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