第33回業績発表会優秀賞、奨励賞及び特別賞受賞者コメント
                企画・情報部企画課

平成28年12月22日(木)に行われた、第33回業績発表会で優秀賞、奨励賞及び特別賞を受賞された10名の方々からコメントをいただきましたのでご紹介いたします。

○優秀賞
病院看護部谷脇 路子
病院第一診療部浦上 裕子
自立支援局第一自立訓練部生活訓練課水谷 宣昭
研究所感覚機能系障害研究部安  啓一
病院第二診療部石川 浩太郎
病院第三診療部田島 世貴
研究所感覚機能系障害研究部世古 裕子
研究所感覚機能系障害研究部瀧田 真平

○奨励賞
病院リハビリテーション部角田 航平

○特別賞
秩父学園療育支援課日野 憲文

【受賞者コメント】
<優秀賞>
病院看護部 谷脇 路子
演題:「手指消毒剤の形状による頸髄損傷患者の手指衛生の効果」

 この度は優秀賞という過分なる評価をいただき、誠にありがとうございます。私たち3人で協力し発表に至ることができました。このような賞をいただけたのも、研究指導をしていただいた石川ふみよ先生、粟生田看護部長、堤看護師長、横田看護師長、看護師の皆様、被験者としてご協力くださった頸髄損傷の患者様のお陰だと、感謝の気持ちでいっぱいです。
 手指消毒剤は手指衛生保持のために欠かせないものです。今回の研究では、手指消毒剤の形状で頸髄損傷患者にとって泡状手指消毒剤が消毒効果が高いことが明らかになりました。当院では泌尿器科で渡されることもありますが、患者様はゲル状の手指消毒剤を使用しています。今後、私たちの結果を活かすならば、手指消毒剤の選択の際は泡状を推奨していければ幸いです。実際、市販されている泡状手指消毒剤が少ないため、リサーチを続けて患者様に必要な情報提供をしていきたいと思います。また、頸髄損傷者でも使用しやすい容器の工夫なども必要と考えています。センターの他職種の方と連携し頸髄損傷者が手指衛生を保つ方法や用具の検討をしていければ良いと思います。
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病院第一診療部 浦上 裕子
演題:「全盲の高次脳機能障害者の記憶障害に対するリハビリテーションについて」

 このたびは標記演題が過分にも、業績発表会で優秀賞をいただき、光栄の至りです。私個人としては平成15年の業績発表会で優秀賞をいただいてから、13年ぶり2回目の受賞です。今回は、13年間国リハで積み上げてきた臨床の成果が結実したものであり、前回の受賞より感慨深いものがあります。「高次脳機能障害」は、平成13年のモデル事業開始から、センター全体で一丸となって取り組んできた障害です。病院では、その時に立ち上がった病院部会の活動を通して、カンファレンスやミーテイングを何回も重ね、高次脳機能障害者に対して最善の医療とリハビリテーションを提供するべく試行錯誤してきました。今回の演題はその病院部会の流れを受け継いだ専門職と一緒に、視覚障害をもつ高次脳機能障害者に対するリハビリテーションを、「記憶障害」との関連から、症例を通して考察したものです。全盲の障害者に、環境認知の方法を導入する場合、道順を覚え、頭の中で反芻する必要があるため、一定の「記憶」機能が保たれていることが必要となります。高次脳機能障害としての記憶障害が軽度な場合は、聴覚や触覚を用いた代償手段を導入することによって、環境認知を生活全般に般化することができます。しかし記憶障害が重度で道順を覚えられない場合には、環境認知の方法を導入することによってますます混乱が強くなるため、安全な誘導をすることが必要となります。頭頂葉の障害としての空間認知(心的回転や空間定位能力)の障害を伴う場合でも、記銘力が保たれている場合には、反復学習や環境認知を取り入れることで、言語的な記憶で統合された空間情報から道順の記銘・想起ができるようになる場合もあります。このように全盲の高次脳機能障害者に対しては、記憶障害と空間認知障害の程度に応じて、視覚以外の感覚(聴覚・触覚)を用いた認知リハビリテーションを組み入れ、環境調整を行いながら、代償手段や学習の定着をはかることによって、QOL向上に働きかけることが必要となります。生活訓練や地域社会へ移行する前に、このような形で病院の高次脳リハを積極的にとりいれ、退院後に中心となる介護者に対応の方法を指導することで社会参加の促進に寄与できると考えます。
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自立支援局第一自立訓練部生活訓練課 水谷 宣昭
演題:「生活訓練利用者における実車運転評価と神経心理学的検査との関連性について」

 この度は「生活訓練利用者における実車運転評価と神経心理学的検査との関連性について」ご評価いただきありがとうございます。この場をお借りして今回の報告に協力していただきました皆様にお礼申し上げます。
 自動車運転には様々な認知機能が必要となります。高次脳機能障害者の自動車運転評価については、実車運転評価がゴールドスタンダードとされていますが、実車運転評価を実施できる環境は少ない状況です。昨年度より高次脳機能障害者の自動車運転再開プログラムを検討するため、高次脳機能障害者の実車運転評価と神経心理学的検査との関連性について調査を行ってきました。実車運転評価とスクリーニング的に行える神経心理学的検査との関連性を検討することは当事者と支援者にとって有用な情報になると考えます。
 今回の調査で実車運転評価と神経心理学的検査について新たな関連性は示唆されませんでしたが、実車運転評価を行えない施設(医療期間等)で利用できる自動車運転再開プログラムを継続して検討していきたいと考えております。ありがとうございました。
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研究所感覚機能系障害研究部 安 啓一
演題:「日本語を母語とする吃音者における白質の異方性比率低下」

 この度は発表内容につきまして身にあまる評価を頂き、誠にありがとうございました。2014年9月に研究所感覚機能系障害研究部に配属になりましてからはや2年半が過ぎようとしております。音声・音響・聴覚の信号処理の経験から吃音の研究に取り組みはじめ、昨年度より最大の方向転換として吃音の脳研究の分野に飛び込みました。文字通り右も左もわからない状態からご指導いただきました、上司の森浩一先生をはじめとした先達の方々にはいくら感謝の言葉を伝えてもきりがありません。
 MRIの測定から解析まで行っている現在の姿を、配属当時の自分に見せたとしたら大層驚くと思いますが、以前より何かを選択するときに難しさにとらわれず面白いと感じる方を選んできた身としては、振り返ると納得の道程なのかもしれません。今後の人生の中で生かせる強力なスキルを見つけることができたことは大変幸せであると思います。
 当事者の方からの「吃音は何が原因なのか」という切実な質問の答えにほんの少しでも貢献できるよう、吃音の病態解明に向けてこれからも精進してゆく所存です。ありがとうございました。
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病院第二診療部 石川 浩太郎
演題:「新生児聴覚スクリーニングでPASSを示した小児難聴症例の検討」

 この度は私どもの発表に対して「優秀賞」というご評価をいただき感謝申し上げます。耳鼻咽喉科では聴覚障害、平衡機能障害、音声・言語障害、そしゃく・嚥下機能障害の4障害を主に担当しています。この中で当センター病院では特に聴覚障害と言語障害(言語発達遅滞、構音障害、吃音など)に力を入れて診療しています。
 聴覚障害においては、発表でもお示ししたように新生児聴覚スクリーニングの普及で、難聴の早期発見が増加しました。また難聴遺伝子診断や画像検査、精密聴覚検査などの進歩で、原因診断においても詳細な検討が行えるようになりました。加えて補聴器や人工内耳の発展により、より患者個人に適合した補聴機器を使用した療育ができるようになりました。当センター病院では最新の情報を得た上で、来院される患者の皆様にこれらを提供できるよう努力を重ねています。
 そのような中、今回のテーマは、新生児聴覚スクリーニングの結果、難聴の疑いなしとされていた症例のうち、後になって難聴を疑われ受診し、確定診断に至るケースに注目しました。その頻度が14.5%と予想よりも高い結果となりました。患者側も医療者側も過去の結果を盲信して、現状での難聴の存在を見逃してしまうケースが少なくありません。常に患者やその家族の訴えに耳を傾け、その所見を捉えて診断に導いていくことの重要性を、あらためて確認致しました。
 聴覚障害の診療は診断し、補聴できれば終了という訳には参りません。特に小児難聴の場合は、その後の人生を患者本人がどのように過ごすのかを考えながら、長期にわたって関与していく必要があります。またご家族へのサポートも重要です。これは医師のみでは不可能で、今回の発表にも協力してくれた言語聴覚士や臨床検査技師など病院スタッフ全体での協力が不可欠です。これまでの各スタッフへの協力に感謝すると共に、今後もチーム一丸となって聴覚障害の診療にあたって参ります。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
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病院第三診療部 田島 世貴
演題:「自立支援局から紹介された発達障害事例」

 この度は大変名誉ある優秀賞をいただき、心より感謝申し上げます。今回、私が第三診療部を代表して発表させていただきましたが、発表内容は私が赴任する以前からの児童精神科と自立支援局との連携が積み上げられたものです。この取り組みを評価いただきましたことで、第三診療部一同、さらに身の引き締まる思いです。
 障害者への施策が身体障害の枠組みを超えて、高次脳機能障害や発達障害に広がる中、国立機関として、また福祉・医療・教育・研究の集合体たる組織として、有機的に連携することが求められていると理解しています。自立支援局からもそのような観点でケースの紹介をいただいていただき、大変有意義な事例の蓄積がなされているものと感じています。特に視覚障害や聴覚障害の重複事例というだけでもチャレンジングな事例ですが、さらに発達障害が重複した例などは、当センターだからこそ経験し、事例として蓄積しうるものだと考えています。今回の業績報告では、発達障害と他の障害が重複する事例では就労につながったものは少数で、多くは生活支援で終了したものが中心であったことを申し上げました。第三診療部ではこれらの経験を踏まえ、発達障害の評価を行い、その結果を踏まえて生活スキル獲得を目的とした入院プログラム開発を開始しました。このプログラムが、就労支援や就労移行支援に繋げたくても、支援を受けるための外出さえままならない事例が自立支援サービスへリーチするための新しい施策として機能することを期待しています。
  引き続き、このような事例の蓄積を重ね、地域の福祉や医療で実践可能な連携モデルを提示できることを目指していきたいと考えています。
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研究所感覚機能系障害研究部 世古 裕子
演題:「ヒト体細胞から網膜視細胞への直接的分化誘導とその応用」

 この度は、私たちの発表「ヒト体細胞から網膜視細胞への直接的分化誘導とその応用」を優秀賞としてご評価いただき、誠にありがとうございました。日頃、ご指導・ご協力頂いている関係各位に心から御礼申し上げます。
 網膜の再生研究は近年急速に進み、ヒト多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)から試験管内で作られた網膜組織の臨床応用も視野に入ってきています。しかし、網膜への分化誘導には数か月間の培養を要し、時間がかかることが問題視されてきました。一方、“体細胞”に数種類の転写因子遺伝子を同時に導入することによってiPS細胞を経ることなく短期間(1〜2週間)で必要な細胞を得ることができる“直接的分化誘導法(ダイレクト・リプログラミング)”と呼ばれる技術も開発されています。当研究室では、他施設(国立成育医療研究センター・日本医科大学)と連携し、この技術を用いた網膜視細胞の作製に取り組んできました。ヒトからの採取が比較的容易である皮膚線維芽細胞からこの技術で分化誘導すると、誘導細胞が本来の視細胞と比較すると限定的ではありますが、網膜視細胞特異的遺伝子や蛋白を発現し、光照射に対して過分極応答することを見出し、臨床への応用を検討してきました。
 網膜色素変性症(RP)は、当センター病院ロービジョンクリニック患者の原因疾患首位を占め、夜盲や視野狭窄を伴う進行性の遺伝性疾患ですが、有効な治療法は確立されていません。RPの原因遺伝子のほとんどは網膜のみに発現していますが、検体として網膜採取することは不可能です。そこで、上記の技術で、網膜変性の患者さんの体細胞から網膜視細胞に分化誘導し、患者さんの網膜に近い細胞(変性視細胞モデル)を作れれば、網膜変性視細胞モデルとして解析できる可能性があります。平成24年度から、当センター病院眼科受診中のRP患者由来の皮膚線維芽細胞から分化誘導した視細胞様細胞を変性視細胞モデルとして解析してきました。
 今回は、1名のRP患者由来誘導細胞の細胞死について、変性モデル細胞としての可能性を検討しました。その結果、患者由来の誘導視細胞の方が細胞死を起こしやすいことが分かり、今回の誘導細胞が患者さんの変性網膜を反映している可能性が示されました。今後、遺伝性網膜変性疾患の診断、病態解明や治療に用いる薬剤のスクリーニング等への応用も考えられます。更に解析を続け、RPによる失明予防に貢献したいと思います。今後とも宜しくお願いいたします。
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研究所感覚機能系障害研究部 瀧田 真平
演題:「小型魚類における視覚機能評価の標準化の試み」

 これまで賞とは無縁だったため、今回の業績発表会でまさか優秀賞をいただけるとは思っておらず、嬉しい驚きでした。ありがとうございます。光依存的に網膜で生じる電位変化を記録する方法である網膜電図は、ヒトでは比較的馴染み深い網膜機能評価方法のため発表させて頂いた内容が理解しやすいものであった点と、ヒトとはかなり遠い小型魚類を対象として行っているため逆にちょっとした興味を持って頂きやすかった点とが、うまく相まっての結果ではないかと推察しております。
 私は論文として発表することを念頭において日々研究に明け暮れておりますので、本研究を含め、形としてまとまるまではなかなか皆様に全体像を知って頂ける機会がありません。しかし一方で、逐一公にするのは難しいです。そのため、現在進行中の研究プロジェクトは業績に反映されにくく、支援を得たい立場の駆け出しの研究者にとっては悩ましい状況といえ、もどかしさを感じる時もあります。しかし、今回は当センター内で行われる行事ということで、今年度新たに立ち上げたプロジェクトを発表させて頂きました。それを評価して頂けたため、現在の目的・方向性が当センターのそれと一致していると分かり、安堵しております。
 よって今後は、今回の受賞はあくまで今後の本研究の進展への信頼と期待として頂いたものと捉え、これに奢ることなくより一層研究活動に邁進する所存でおります。そしてこれまで培ってきた基礎的な研究アプローチを基盤として新しい技術の開発にも挑戦し、視覚障害研究にインパクトを与える確かな成果を発表することで当センターに寄与するとともに、社会に対しても貢献することができればと思っております。
 末筆ではありますが、私、当センターへ移ってまだ一年経っておらず至らない点が多々あると思いますが、これまで寛大なご支援を頂きましてありがとうございます。これからもこれまで築いてきた信頼を失わず精進してまいりますので、今後とも本研究活動へのご指導・ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします。
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<奨励賞>
病院リハビリテーション部 角田 航平
演題:「通級指導教室と連携して指導を行い改善した学齢期吃音の1例」

 この度は、奨励賞というご評価をいただき、誠にありがとうございます。学齢期吃音の分野に目を向けて頂けたことを大変うれしく思います。
 学齢期は単なる吃音症状だけでなく、対人関係や社会参加の広がりなどによって問題がより複雑化してくる時期です。今回は、その学齢期吃音児に対して、通級指導教室と協力し、お互いの強みを生かしながら介入を行ったことで、一定の成果を出すことができました。
 その後、今回一緒に担当して下さった通級の先生は地域の多くの吃音児を担当して下さるようになっており、連携した指導の成果は今回の症例だけにとどまらない広がりをみせています。
 学齢期吃音児の臨床を行っている医療機関は非常に少なく、訓練効果の報告も少ないのが現状です。今後も学齢期吃音児支援のより一層の発展のために、私も微力ながら意義のある発信をしていけるよう努力してまいります。
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<特別賞>
秩父学園療育支援課 日野 憲文
演題:「攻撃行動を示す利用者に対する予防的観点からの支援について」

 この度は発表させていただいた支援についてご評価いただき、誠にありがとうございました。
 現在示されている利用者の攻撃行動は最近始まったことではなく、何らかの要因が重なり示されているものと考えています。つまり二次障害であり、そこを解きほぐしながら支援を行っていくには、とてもパワーが必要なことでした。それでも、ここまできたのには利用者に寄り添い、何に困り、何に不安を抱いているのかアセスメントを行いながら支援をしてきた結果だと思います。そして、利用者が少しでも楽になり、不安を解消することができたらと日々模索しながら支援を積み上げ、チーム全体で取り組んできた成果だと思います。
 行動障害がある利用者に対しての報告はたくさんありますが、それぞれ特性や能力が違う中で絶対という方法がないとういうのが実情です。それでもチーム全体で取り組むことで、様々な視点からアイデアが生まれます。試行錯誤をしながら良いと思ったことがダメであったり、いまいちと思ったことが良かったりということが多々ありましたが、それでも利用者と向き合いながら、時には叩かれながらも支援を継続してきました。これで支援が終了ではなく、これからも永続的に支援は必要となってきます。まだまだある不安感や緊張感が少しでもほぐれ、QOLが向上していくことを願うばかりです。
 今回の受賞を受けましたことを胸に、これからも精進を重ねて、より良い支援の実践に取り組んでいきたいと考えております。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
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