第31回業績発表会優秀賞及び奨励賞受賞者コメント
                企画・情報部企画課

平成26年12月19日(金)に行われた、第31回業績発表会で優秀賞及び奨励賞を受賞された10名の方々からコメントをいただきましたのでご紹介いたします。
○優秀賞
病院第三診療部鈴木 繭子
病院看護部粟生田友子
病院リハビリテーション部山本 正浩
自立支援局伊東重度障害者センター森野 徹也
研究所感覚機能系障害研究部鷹合 秀輝
研究所感覚機能系障害研究部小倉  淳
病院第二診療部仲泊  聡

○奨励賞
企画・情報部発達障害情報・支援センター山口 佳小里
自立支援局理療教育・就労支援部
小林  菜摘
就労移行支援課発達障害支援室
研究所感覚機能系障害研究部小牟田 縁

【受賞者コメント】
<優秀賞>
病院第三診療部 鈴木繭子
演題:「発達障害思春期・青年期対象の児童精神科ショート・ケアの取り組みおよび児童精神科外来の活動概況についての報告」

 このたびは、私たちの「発達障害思春期・青年期対象の児童精神科ショート・ケア」(以下ショート・ケア)の報告につきまして、優秀賞という過分なる評価をいただきありがとうございました。
 今回報告いたしましたショート・ケアは、平成26年4月3日より発足し、1回3時間のプログラムを月4回行っています(平成27年1月現在)。当院ショート・ケアは、就労や進学への移行期にある青年を対象とし、発達障害者のライフステージ間の移行をスムーズに進めることを目的とした、通過型の精神科ショート・ケアです。特徴としては、発達障害向けのSSTプログラム、障害理解や自己理解を促進する心理教育的講義のほかに、リハビリテーション病院の機能を活かした運動療法や生活訓練をプログラムに盛り込んでいる点があげられます。
 また、当院ショート・ケアは地域の高校生年代の利用が中心となっており、発達障害の早期発見・早期支援につながらずに特別支援教育を受ける機会を逸し、高校生年代以降に社会不適応をきたした発達障害の青年への支援ニーズが存在することをとらえたものになっています。
 発達障害の青年は対人関係のとり方が上手ではなく、友達が欲しいがうまく作れない、友人関係が長続きしない、などの悩みを抱えていることが多いです。また、過去のトラブルや話題が合わないなどの理由で、他人との交流を積極的には望まない人もいます。当院ショート・ケアでは、他者と自分とを重ねて自己理解を深めたり、共通の悩みをもつ仲間と出会うという発見があり、参加者から好評を得ています。また、経験していても応用できない般化の難しさや不器用な体の使い方から、生活支援や体育指導へのニーズがあることもショート・ケアを運営しているなかで実感しているところです。
 発達障害向けの精神科デイ・ケアやショート・ケアは全国的にも増加傾向にはありますが、国リハならではの視点を持ち、発達障害者に必要な支援を開発していくことが現在の責務と考えています。今後はさらなるショート・ケアプログラムの充実に力を入れていき、外部への発信へも力を尽くしていきたいと考えています。
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病院看護部  粟生田友子
演題:「皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC)を現場に導入することによるケアの変化 −導入開始8か月間での活動の分析と評価−」

 今年度の発表は、専門性のある看護師を登用することで現場がどう変わりうるのかということをテーマにしてまとめております。とても嬉しい受賞でした。感謝申し上げます。
 本センターは、看護師の臨床経験の幅からすると、「障害者ケア」という限られた分野にかかわることが特徴であり、強みでもありますが、一方で残念ながら認定看護師(CN)や専門看護師(CNS)を育成していくには限界があります。平成26年度現在4名2分野の認定看護師の育成が実現できましたが、それでも他の一般病院から見ると少ない育成数になると思います。認定看護師の育成は、教育機関に行くまでの臨床経験年数が問われ、さらに現場での実務経験の中身が問われます。そのためにこの4名の育成についても事前に近隣の医療施設に研修に出向き、さらに本院での現場経験を査定しての受験準備、合格後には教育機関での1年間の育成、そして認定試験の受験という3年にわたる準備期間を踏まえての資格取得でした。私が着任して3年、やっと4名までこぎつけました。
 21分野の認定看護師コースのうちあと本院で育成を急がれるのは、「皮膚・排泄ケア」「摂食・嚥下」「感染管理(もう1名の育成)」の分野です。看護師の臨床実践能力を上げるためにはこうした専門性の高い看護師の知識や技術が必要であり、今後は臨床の現場の看護師うち約7割は認定看護師資格を持つべきであるという有識者の意見もあります。
 今回の発表は、こうした院内の自力での認定看護師育成の困難を踏まえて、2014年春から非常勤で登用した「皮膚・排泄ケア認定看護師」(WOK)1名の活動によって、現場で何が変わるのかをまとめました。実際の活動内容、現場で働く看護師の認識するケアの変化、認定看護師が認識した現場のケアや看護師の変化について、質的データに基づいて変化の内容を抽出し、カテゴリー化したものです。
 まとめてみて、現場は変わりうるのだということや、医師や栄養士をはじめとする多職種の協力も得られるのだと実感しました。そう実感できたことが何より私自身の一歩になりました。ありがとうございました。
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病院リハビリテーション部 山本 正浩
演題:「高次脳機能障害評価入院5年間のまとめ」

 この度は、当センター病院で実施している「高次脳機能障害評価入院」に関する報告を評価していただき感謝しております。
 「高次脳機能障害評価入院」は、発症・受傷から1年以上を経過した脳損傷者で、高次脳機能障害の存在が疑われる、あるいは存在するが適切に支援されていない可能性があり、社会適応に支障を来している方を対象に、2週間の入院で多面的に評価することでその問題を明らかにして、解決のための情報を提供しようというものです。
 短期間の入院で評価することは難しいことです。これが可能になる背景には、「高次脳機能障害支援モデル事業」開始以前より高次脳機能障害者へのリハに長年積極的に取り組むことで、スタッフが「見えない障害」を見る目を持つことができたことが挙げられます。つまり、当センター病院だからこそできる独自性の高い取り組みだと思っております。
 さらにはこの取り組みで培ったノウハウは他の障害にも応用のできる発展性を持ったものであるとも考えております。
 今後も一人でも多くの患者さまのお役に立てるよう精進していきたいと思います。
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自立支援局伊東重度障害者センター 森野 徹也
演題:「頸髄不全損傷者におけるADL達成率と期間」

 業績発表会では、過分な評価をいただき、誠にありがとうございました。今回の発表は、近年増加傾向にある不全損傷麻痺の残存機能をどうすれば分かり易く表現できるのだろうかという疑問から始まりました。そして上肢と下肢の評価を分け、下肢は改良フランケル分類、上肢はUEMS totalの点数によって示す方法をとりました。しかし、伊東センターのみではデータ数が少ないことや、今回のクラス分けに不十分な点もありました。今後も継続してデータの蓄積に取り組む必要があると考えています。また不全損傷麻痺のクラス分けについては、施設間の垣根を越えた議論が必要です。
 これからもより良い支援を提供できるよう、問題点を整理しながら進んでいきたいと思います。最後になりましたが、ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
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研究所感覚機能系障害研究部 鷹合 秀輝
演題:「聴神経由来の難聴の病態解明について(第2報)」

 この度は、私の研究室が行っている研究をご評価頂きまして誠にありがとうございました。
 今回の発表では、オーディトリーニューロパチーという聴覚障害を来す疾患群の病態解明に関する研究についてお話しさせて頂きました。オーディトリーニューロパチーは1996年に初めて日本と米国から別々に報告されましたが、新生児聴覚スクリーニングに用いられる検査(聴性脳幹反応と耳音響放射)にて特異的なパターンを示すことから注目を集めており、国内外で精力的に研究が進められているところです。難聴遺伝子などが原因となり一定の割合で発病するため、新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査機関に指定されている当センターとも関連が深いと言えます。患者(患児)さんから直接内耳の組織を取って調べることはできませんので、遺伝子を改変して難聴になったマウスなどを使って動物実験を行っています。ちょうど今年度から研究所の動物実験室管理責任者を拝命し、初めての外部評価も経験いたしました。準備に際して大変な労力が必要となりましたが、当センターにおいて動物実験が適正に実施されていることが認証された訳ですので、苦労が報われたとホッとしているところです。関係者の皆様には多大なご協力を頂きました。この場を借りてお礼を申し上げます。
 さて、私が平成24年春にドイツ留学から帰国して当センターに着任してから3年近くが経ちますが、留学先のドイツ・ゲッティンゲン大学とも共同研究体制を維持し、国内では東京大学や東京医科歯科大学などとの共同研究を新たに開始し成果も出始めております。今後もこれまでに築いてきたネットワークを更に発展させつつ、聴覚障害者の福祉の向上に貢献できるように研究を進めていく所存です。
 それでは、今後ともご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。
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研究所感覚機能系障害研究部 小倉 淳
演題:「発話における左前頭前皮質の脳血液応答:吃音の近赤外分光法研究」

 今回の発表についてご評価いただき大変ありがとうございます。これも部内の皆様の協力のお蔭であると感謝しております。
 私はこの職場に来る前まで大学院で精神科領域の研究を行っておりました。そのため吃音の研究についてはこちらに来てからであり、手探り状態で研究を始めた当時の苦労は今でも記憶に新しいです。ですが、流動研究員最後の年にこのような賞をいただけたことで、これまでの苦労が報われたように感じております。
 吃音はいまだその原因が明らかとされていないものであり、様々な方面からのアプローチで研究が進められております。しかし、吃音を研究している機関、吃音を診ることができる専門家は多くないと聞きます。私の研究は吃音の症状や訓練効果の評価を客観的に行うことができる検査法の開発等に繋がるものであり、この新しい客観的評価法が完成すれば吃音臨床の効率化が可能になるのではないかと考えております。それによって吃音で生き辛さを感じている当事者の方のお役に立てるのであれば幸いにございます。
 今回の成果では日本語になく意味を持たない文字列(無意味単語)を読んだときに左前頭前皮質の一部の領域(ブロードマンの脳地図における46野)において脳血液応答が対象群に比べて吃音群で有意に大きいことが示唆されました。われわれの知る限り、この領域が吃音と関連するという報告はなく、新たな知見として得られたものであり、引き続き詳細な解析を進めているところであります。さらに現在は幼小児でも検査できるよう環境整備を行っており、将来的には吃音の進展と脳機能との関連について明らかにし、吃音者・児における予後の予測等を行うことができるようになればと考えております。また、今回用いた装置の特徴を活かし、計測結果を即座に吃音者にフィードバックすること(バイオフィードバック)が可能になれば、吃音の新たなリハビリテーション法として応用することも期待できます。
 今回の受賞を励みに今後の吃音研究にさらに貢献していければ光栄に存じます。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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病院第二診療部 仲泊 聡
演題:「アクティブ視野計測システムの開発」

 最初のアイデアが降って来たのは10年前でした。私がまだ、センターに来る前です。その頃、私は専門にしていた脳機能測定と目の前にいる視覚障害者の支援との接点を模索していました。考え抜いて出てきた答えは「究極の人工視覚として白昼夢をコントロールする」という、まるでアニメの世界に出てきそうなものでした。そして、夢に興味を持ちました。夢は確かに見るものだと思います。では、眼の悪い人は眠っているときの夢の中でも眼が悪いのでしょうか。患者さんに夢の話を聞きました。様々でしたが、一般的には低視力の方は夢の中でも低視力のようでした。視野はどうだろうかと聞きましたが、答えられる人はいませんでした。起きているときでも視野異常を自覚するのはなかなか難しいので、ましてや夢の中のことなぞ聞かれてもわからないのです。そこで、何とかして夢の中で視野検査ができないかと考え、思いついたのが眼の動きで視野を測定することでした。周辺視野にある対象に視線を向ける速い眼の動きを正確に測定できれば、視野がわかるのではないかと考えました。そして、眠っていても測定できるように、眼の回りに電極を貼って眼球運動を測定しました。まずは、起きている視野狭窄の人の眼球運動から視野狭窄を測定できなければと考え行ったところ、何と視野狭窄が検出できませんでした。電極では精度が悪く無理なのかなと一時は諦めかけました。しかし当時、生理学研究所のサルを使った研究で、視野欠損があっても眼球運動での視野欠損は回復するという論文が出ました。これを見て、ヒトでも眼球運動での視野欠損は、感覚の視野欠損よりも改善しやすいのではと思いました。受障直後に身動きが取れなかった視野障害の患者さんが、視野の改善がなくても次第に動きがよくなるということは少なくありません。そこで、眠っているときの話の前に、もっと起きているときの眼球運動と視野との関係を調べようと思いました。赤外線による視線計測装置は高価でなかなか買えませんでしたが、平成25年度にようやく研究費が付いて手に入りました。そして、この研究が本格的にスタートしました。今回の発表では、まだ、その全容を解明できたわけではありません。これからさらに掘り下げて、本研究が視野狭窄に困っている患者さんのリハ訓練に発展することを目指します。そして、何年か後には、夢の中の視野が測定できるようになり、さらに将来には、夢をコントロールして視覚障害を克服するという夢が実現できるといいなと思っています。
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<奨励賞>
企画・情報部発達障害情報・支援センター 山口佳小里
演題:「発達障害者の機能評価と就労支援プログラム −体力・巧緻性・注意機能を中心に−」

 この度は、業績発表会において「発達障害者の機能評価と就労支援プログラム−体力・巧緻性・注意機能を中心に−」をご評価いただきありがとうございました。
 当センターでは、平成24年度より、発達障害を対象とした就労移行支援事業に取り組んでいます。発達障害の特徴は多岐にわたることから、支援においては就労に必要な技能習得だけではなく、就労の基盤となる生活リズムや日常生活スキル等にも着目し、利用者の方々が安定した職業生活を送れるよう支援しています。このような支援を提供するにあたり、当センターの特色を生かして、社会福祉士や心理士に加えて、作業療法士やリハビリテーション体育の専門職が利用者の方々の評価や訓練に関わり、協働して支援を提供しています。今回はその中で、体力、巧緻性、注意機能に関して、発達障害のある利用者の方々に実施した評価の結果と、それを踏まえて計画・実施している就労移行支援プログラムについて報告させていただきました。
 今後も、他職種で協働しながら、それぞれの利用者の方々の特徴に合った有意義な支援を提供できるよう、職員が一丸となり職務に邁進していく所存です。この度は誠にありがとうございました。
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自立支援局理療教育・就労支援部就労移行支援課
発達障害支援室 小林 菜摘
演題:「発達障害者の就労移行支援における、生活活動に関するアセスメントの試作」

 この度は、「発達障害者の就労移行支援における、生活活動に関するアセスメントの試作」をご評価いただきありがとうございました。
 発達障害支援室では、平成20年より実施した『青年期発達障害者の地域生活移行への就労支援に関するモデル事業』を踏まえて、平成24年から発達障害者を対象とした就労移行支援事業を行っています。近年では、発達障害者の障害福祉サービスの利用の増大とともに、当センターの就労移行支援事業においても、利用者の障害特性、二次障害、知的水準の幅の広がりが見られ、支援ニーズの幅も増大してきました。多様なニーズをより的確に捉え、利用者への適切な支援につなげるためのアセスメントを試作し、支援の概念整理をさせていただきました。
 今後は、本アセスメントの実施と支援事例の積み上げ、アセスメントについて利用者及び支援者への使用感の聞き取りを行いながら、必要に応じて適宜改良すること、アセスメントの有用性の検証を行い、よりよい支援につながるよう研鑽していく所存です。
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研究所感覚機能系障害研究部 小牟田 縁
演題:「直接的分化誘導法による網膜視細胞作製技術の応用・変性過程のin vitro解析」

 この度は本課題「直接的分化誘導法による網膜視細胞作成-変性過程のin vitro解析」を評価していただき、奨励賞を頂くことができました。心より光栄に思うと同時に、お世話になった方々や関係者の皆様方のご厚情に深く感謝いたします。
 現在、iPS細胞のように再プログラミングによって、ある細胞を別の細胞へ作り変える技術が日進月歩で発展していますが、一般的な研究室にとって、iPS細胞を扱うにはまだまだ時間と費用の面でコストがかかります。しかし本課題で使用している直接的分化誘導法は、iPS細胞を経ずに別の細胞へ直接分化させるため、手順が少なく、時間と費用がかかりません。つまり直接的分化誘導法は、一般に広く普及する可能性を持つ技術です。実際に作製できる細胞は多岐にわたり、神経細胞や心筋細胞など多くの細胞が作製できることがすでに知られており、最近でも肝細胞を作製した報告がありました。さらにマウスの脳損傷やアルツハイマー病モデルの患部の細胞から神経細胞を直接作製する試みについての報告もありました。これはiPS細胞を経る方法では実現が困難なアイデアです。直接的分化誘導法を研究することでより扱いやすい技術となり、一層普及することで様々なアイデアが取り入れられ、再生医療が大きく進展することを願っております。
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