「誰もが住みやすい社会を〜障害者権利条約の完全実施に向けて〜」
障害者週間記念特別講演の開催

企画・情報部企画課

 去る、12月5日(金)当センター講堂において、障害者週間記念式典に引き続き、千木良正先生をお招きし、特別講演を開催しました。
 特別講演には社会福祉士及び弁護士として活動されている千木良正先生に「誰もが住みやすい社会を〜障害者権利条約の完全実施に向けて〜」と題して、講演いただきました。

 障害者権利条約が2006年国連で採択され、また2014年日本において批准されました。また、2013年障害者差別解消法が制定されました。その流れの中で、「合理的配慮」という言葉が障害者権利条約においても障害者差別解消法においても採用されている。この「合理的配慮」という言葉がこれからの日本の社会に取り入れられていくことが想定されています。
 この言葉がきちんと定着していくと「誰もが住みやすい社会」を築いていくことができると思います。
 この言葉を定着させていくためには、障害者に対する「合理的配慮」の考え方について、行政機関や事業所はもちろん、国民一人一人がきちんと理解することが最も重要なことだと思います。
 「合理的配慮」を理解する上で、まず「障害」という概念について学んでおく必要があります。「障害」という言葉については、考え方が、従来の医療モデルから社会モデルへ転換してきています。
 医療モデルとは、障害がある人がいろいろ不利益を受ける場合には、その不利益の問題はその人個人の問題であるという発想で考える方法です。その結果、障害による不利益をその本人の努力等にて何とか乗り越えていこうという発想につながります。
 それに対して、社会モデルとは、障害がある人がいろいろ不利益を受ける場合には、その不利益の問題はその人個人の問題ではなく、社会の側に問題があるという発想で考える方法です。
 例えば、口頭のみによる情報伝達。これでは、聴覚障害者へは伝わりません。
 また、墨字文章のみによる情報伝達。これでは、視覚障害者へは伝わりません。あるいは、階段のみによる移動。これでは、肢体不自由者、特に車いすの方は一人での移動が困難となってしまいます。
 これらの不利益は、情報を伝える側・設備を設置した側が、無意識かもしれませんが、それぞれの方法によって対応できる方のみを対象とし、対応できない方を排除していることになっているのです。
 音声を聞き取れる方のみを対象とした情報伝達、墨字文章を読むことができる方を対象とした情報伝達、階段を移動できる方を対象とした建物の設置を行う社会の発想、価値観こそが、不利益をもたらしているのであって、社会のあり方を変えることで障害は乗り越えていくことができるという考え方です。
この考え方は、障害者権利条約や障害者差別解消法において用いられています。
 次に「合理的配慮」とは具体的にどのようなことかについてです。
 2013年に制定された障害者差別解消法では、「差別的取扱い」や「合理的配慮の不提供」を禁止しています。
 「差別的取扱い」とは障害を理由とした不利益、たとえば、障害のある人には施設利用を拒否すること等が該当します。それに対し、「合理的配慮の不提供」とは、例えば、店舗に段差があるなど、車いすや足の不自由な方に対して適切な配慮を怠っていた場合等になります。
 合理的配慮の具体例としては、
・ 店舗にスロープを設置する、
・ ジョブコーチを付ける、
・ 飲食店で点字メニューを用意する、
・ 入学試験で視覚障害者に時間延長を認めるなどがあります。
 但し、過度に金銭負担がかかるものについては、「合理的配慮」を求めることは難しいとされています。
 また、法律は「差別的取扱い」の禁止については国・地方公共団体・民間事業者に法的義務を課しています。それに対し、「合理的配慮の不提供」については、国・地方公共団体に対しては法的義務、民間事業者に対しては努力義務を課しています。
 法律には「合理的配慮」について具体的な記載はありません。これからガイドライン等が作成されていく予定です。
 これから誰もが住みやすい社会を実現するために必要なことは、
① 具体的に合理的配慮の内容を定め、社会の常識にしていくこと。
② 民間事業者に対して課している「合理的配慮」の努力義務を法的義務にしていくこと。
③ 社会の環境を実際に変化させていくこと。
④ 権利のために不断の努力を続けること。
だと思います。
 具体的な「合理的配慮」を社会にアピールし続けることで、社会の価値観は変わります。社会の価値観が変われば、誰もが住みやすい社会がより実現されると思います。

弁護活動等でお忙しい中、「誰もが住みやすい社会を〜障害者権利条約の完全実施に向けて〜」についてご講演いただいた千木良正先生にこの紙面をお借りして厚く御礼申し上げますと共に、ますますのご活躍を祈念して障害者週間記念式典特別講演のご報告とさせていただきます。

写真:障害者週間記念式典で講演を行なう千木良正先生


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