第2回 睡眠とアルコール・薬・病気 生活習慣を見直そう(II)

病院第一診療部 浦上裕子
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 「ブランデーはワインのスピリット(精霊)である。ブランデーに濃縮されているものは、人の意識を変える力をもつ。温めたブランデーグラスにブランデーを入れ、グラスを手で温めていると、立ちのぼる揮発性の酒気が鼻を刺激し、ときにはそれだけで酔うことがある。スピリットは、いのちと力の源であり、それがない物質は、生命のないぬけがらである。」アンドルー・ワイル著「癒す心、治る力」より

 忘年会・クリスマス・新年会の季節になりました。みんなで鍋をかこんで楽しく食べて飲むお酒は格別ですね。しかし、急性アルコール中毒による病院搬送例も多々報告される季節でもあります。宴会アルコール・マナー「お酒はほろ酔いかげんまで」を忘れずに、一気のみをしない、強要しない、飲みたくても飲めない人がいる、楽しい適量のお酒を管理・配慮できる人を宴会幹事に選ぶ、などの気配りも大切です。お酒はたしなむ程度、これが意外と難しいのかもしれません。アンドルー・ワイル先生は、アルコールを蒸留酒「スピリッツ」とよび、酒精と定義しています。昔、オランダの酒造家は海を越えた植民地に一度に大量のアルコールを運ぶために、ワインの容積を減らす方法を考え、濃縮したワインを樽に詰めて送ったそうです。植民地に着いたら水を入れて容積をふやせばよいと考えたのです。しかし、樽の中身を試飲した人たちは、水を加えずに、ここで新しい強力なアルコール飲料が生まれ、世界中に広がりました。強い酒に対する「スピリッツ」という言葉は、「スピリット」(精霊)と物質との関係を考えるうえでよいヒントになります。ブランデーはオランダ語で「燃やしたワイン」「加熱したワイン」という意味で、本来はいのちの源なのです。アルコールとは、香りを味わって、みずからの内部をみつめ、体内に宿る生命の源を見つめ直す絶好の機会を与えてくれる、魂への贈り物と考えることが上手な味わい方なのかもしれません。
 しかしアルコールは残念なことに睡眠にはよい影響を与えません。寝付きはよくなりますが、体内で分解される「アセトアルデヒド」がREM睡眠を阻害するために、夜中に覚醒してしまい、睡眠の質を下げてしまいます。
前回(http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/webnews/201210/news_201210_1.html)もお話ししましたが、夜中に夢をみている時間=REM睡眠期は、人間の睡眠と覚醒のリズムの中で重要な役割を果たしているのです。就寝前のアルコールには依存性が生じることがあります。お酒がないと寝られないという悪循環を引き起こし、アルコール依存になる場合があります。寝付きをよくするために・と思って飲んだスピリッツ=アルコールが逆効果になることにはじゅうぶんにご留意ください。
 では、休息と睡眠を妨害するものは何か?睡眠を妨げる興奮性の薬物にはコーヒー・茶類(特に玉露・緑茶)・コーラなどのカフェイン飲料のほかに、エフェドリン(風邪薬やダイエット食品に含まれる)があり、日中飲んだものでも夜間の睡眠を阻害する可能性があります。またニコチンにも睡眠阻害作用があるため、深い睡眠が得られない場合にはお茶やコーヒーだけではなく、タバコも日常生活から排除することが解決方法になります。睡眠を改善するためには嗜好品や生活習慣をもう一度見直すことです。
 睡眠薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)は、どのように用いたらよいのでしょうか。もちろん、市販では手に入らず、医師の処方によるものです。どうしても眠れないときはアルコールではなく、短期間・少量の睡眠薬を医師の処方で服用、眠れるようになったら中止です。ワイル博士もわたくしも、度をこした一時的なストレス反応以外のときには、睡眠薬は服用しないほうがよいと思っています。睡眠薬もREM睡眠を妨げるものであり、依存性があります。しかもアルコールと併用すると、健忘(記憶がない)や場合によっては呼吸抑制をきたすからです。
 日中の眠気は、睡眠と覚醒のサイクルの異常だけではなく、「睡眠時無呼吸症候群」などの疾病が隠されている場合があり、専門病院での精査が必要になります。
 「不眠」とは、睡眠障害で、そのタイプは「入眠障害=寝付きが悪い」、「熟睡障害=眠りが浅く何度も目が覚める」、「早朝覚醒=朝早くに、目が覚めてしまい眠れない」からなります。「鬱病患者」は早朝覚醒が多いとされており、抑うつ気分があるために睡眠障害が引き起こされるものと考えられてきました。しかし、その逆の機序もおこりうるのです。深い睡眠が得られないために抑うつ気分をきたし、日中の活動性が落ち、さらに夜間の睡眠が得られなくなるという悪循環をきたす場合があります。じゅうぶんな睡眠が得られない原因が生活習慣によるものであれば、睡眠薬などによる医学的な処置が逆に悪影響となってしまいます。生活習慣を改善することが抑うつ気分の改善にも繋がることもあるのです。
 眠れないのは自分のせいか、医者のせいか、環境のせいか・・「人には自ら治る力が備わっている」ストレスは何も考えずに一晩眠ると、忘れてしまうものなのかもしれません。眠っている間も脳は、活動しています。記憶や運動学習が定着します。いやな夢でさえも、REM睡眠として大事な睡眠の一部なのです。明日への活力と可能性を秘めたいのちの源である睡眠をもう一度見直してみませんか?
 
 「自発的治癒とは、自我を捨て、あたまで考えることをやめて、からだが自然に治っていくのにまかせることである。からだは治し方をちゃんと知っている。」アンドルー・ワイル著「癒す心、治る力」より
 

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