第1回  心地よい睡眠のために
睡眠とは?生活習慣を見直そう(I)

病院第一診療部  浦上裕子
「活動は休息とバランスをとる必要がある。心身の使いすぎや睡眠不足の悪影響はだれもが経験しているところだ。病気になりやすい状態を作る原因のひとつに、質のいい休息がとれないということがあげられる。反対に、夜間の深い休息は効果的な治癒をもたらし、病気を初期のうちに食い止めることにつながる。したがって、休息と睡眠の質を高めることは、治癒力を強化するプログラムにおいて重要な条件になる。」 
   アンドルー・ワイル著  「癒す心、治る力」より

 今回より、睡眠と健康について、お話ししていきたいと思います。
「人は脳のために眠る」睡眠は日中の活動でオーバーヒートした脳を休め、身体の疲労の回復をはかるための一種の生体防御反応です。脳が生体を維持するために睡眠という脳の休息をひきおこしているのです。一晩の睡眠では、眠りの深さは一定ではなく、REM睡眠といわれる脳波からみた脳の活動レベルは浅い睡眠段階(θ波)だが、起こしてもさめにくく実際は深い睡眠(この時期に夢をよくみます)と、non-REM睡眠という脳波では紡錘波や徐波が出現する深い睡眠とが交互に出現します。実は、浅い睡眠と深い睡眠が交互に出現することに生理学的意義があるのです。最近の神経生理学的研究ではnon-REM睡眠の時期には記憶の強化作用があることが知られています。眠っている間に覚えた記憶が定着し、自分の技能として定着します。覚えたあとにぐっすり眠ると、その記憶が自分のものとして定着するということです。このREM睡眠とnon-REM睡眠という睡眠のサイクルがあることが重要で、脳の進化した生物ほど、この睡眠サイクルの役割が進化してうまく脳を休ませています。鳥類と哺乳類にはREM睡眠とnon-REM睡眠があり、昆虫にも似た睡眠がありますが、魚類や両生類にはREM睡眠とnon-REM睡眠もありません。夢をみることは、ヒトがヒトであるゆえんであり、進化した脳を守るための反応です。いいかえれば恐ろしい夢・いやな夢をみることが正常な生理的反応なのです。フロイトの精神分析では、夢の内容に意味があるように解釈されていますが、その医学的な意義や病的意義、科学的根拠についてはまだ不明な点が多いです。「夢はこころのごみ箱」なのかも知れません。①十分な量の睡眠を確保すること②睡眠・覚醒リズムをできるだけ一定にすることで、日常生活活動を維持できるように心がけましょう。十分量の睡眠時間には個人差があり、短時間睡眠でも熟睡できる方もいれば、長時間寝ないと翌日の活動に影響してしまう方もいらっしゃいます。何時間寝なければいけないという厳密な定義はありませんので、他人と比べず、自分にとって最も適切な時間を理解しておき、そのバランスが崩れた時に、睡眠時間を確保する方法を考えましょう。
 人間の睡眠と覚醒リズムをつかさどる体内時計は脳の深部、脳下垂体、視交叉上核(概日時計)・視床の後方にある松果体といわれるところにあり、ここでメラトニンというホルモンが合成・分泌されます。メラトニンは日光で活性化されますので、体内時計を正常化するためには、朝決まった時間に太陽の光を浴びるようにすること、昼間なるべく外に出る機会を作る、毎日できるだけ他人とふれあう、規則正しい時間に食事をとるなどの工夫が大切です。昼寝は、事故予防・自己評価アップ・ストレス解消・リフレッシュ・疲労や眠気の回復のために効果がありますが、あくまでも、効果があるのは短時間睡眠(15分ぐらい)です。これが30分以上の長時間睡眠になってしまいますと、徐波睡眠が出現するため、起きた後に眠くなり逆効果になります。昼寝が長時間にならないような配慮が必要です。
 生活習慣は早寝早起きが基本ですが、早起きする習慣が早寝につながります。毎日決まった時間に起きる、意識して30分でも早く起きる、目がさめたら日光を取り入れる、規則正しい3度の食事、運動習慣を守るなど、これらは簡単なようで意外と難しいものです。
 不規則な就寝・起床時間、長すぎる日中の昼寝、入眠時の刺激物(コーヒー・茶)の摂取・多量の飲酒、日中の少ない運動量などが睡眠の質を悪化させる原因になりますので、ご自身の睡眠習慣をもう一度見直し、改善できるものがないかどうか確認してみましょう。
 しかし職業がらどうしても不規則な睡眠時間にならざるを得ない場合があります。看護師さんのように交替制の勤務が基本である場合は、個人差はありますが、夜勤あけの翌日はたくさん遊びたくさん寝るという代償性の過眠をとることや、日中、短時間の仮眠をとることで、翌日の日勤に備えることができます。

 現代社会はストレスで満ち溢れた毎日です。この中で心身の調和を守りながら安定して生きていくための健康法、重要なポイントのひとつは、お話してまいりましたように睡眠にあります。健康を維持するという観点から、もう一度、ご自身の睡眠をみなおしてみてください。またアンドルー・ワイルが主張するように運動や歩行も重要なポイントです。運動がヒトの海馬(記憶をつかさどる)や前頭前野(思考や認知統合の中心)の容積や血流の増大をもたらし、認知機能にもよい変化が起こることが期待されています。朝すっきりと起き、さっそうと歩くための睡眠と運動の工夫をすることが心身の健康を維持する秘訣ともいえましょう。

「自分の治癒系に朝の歩行と夜の深い眠りという贈り物をあたえること。そうすれば、どんな事態が起こっても、治癒系がきっと解決してくれる。」
   アンドルー・ワイル著  「癒す心、治る力」より
 
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