国際セミナー「大規模災害と障害者支援」の開催報告

管理部企画課国際協力係

東日本大震災から1年が過ぎました。地震、津波、原発事故の事実は私達の心に鮮明に焼きついています。被災された方々は現在でも様々な困難に直面されていると聞きます。当センターでは障害の予防とリハビリテーションに関するWHO指定研究協力センターとして“災害”と“障害のある人々”、“リハビリテーション”に焦点をおいて「大規模災害と障害者支援」をテーマに2月11日(土)にセミナーを開催しました。実際に災害を経験・支援した方々の講演の概要をご報告します。

 海外からは、四川大地震を経験した中国四川省とスマトラ沖地震・津波の被害を受けたインドネシアのリハビリテーション医師が講演を行いました。

 ①中国四川大学のリハビリテーション部門の何 成奇部長と何 紅晨副部長が、四川ではリハビリテーション専門家が少なく、患者さんは外科的治療が終わると機能障害が残っても、後は自分達で対応しなくてはいけない状況にあったが、震災後に医療の一連の流れとしてリハビリテーションを行うことを進め、地域に戻った後の支援もリハビリテーション専門家が行うことにより、必要な訓練、機器を得ることができると発表しました。重要な活動として、救急リハビリテーションの仕組みを作るためにリハビリテーションに従事する人々の訓練制度を立ち上げ、患者さんの退院とその先の進路の選択についてのガイドラインを作った実績を紹介しました。

 ②インドネシア大学のAngela Tulaar教授はインドネシアは近年に3つの大きな地震・津波に加えてポリオの発生があり、リハビリテーション医療従事者は次々に対応しなくてはいけなかったことを紹介しました。
インドネシアでは、災害発生直後の救急医療のメンバーにリハビリテーション医師が加わり、訓練・義肢の提供を行うことにより合併症予防に尽力したが、災害時の医療施設と従事者が不足だったこと、救急救命医療の従事者に対し、呼吸器のリハビリテーションや脊髄損傷への対処の教育を行った事、患者さんが地域に戻った際のサポート体制を改良するために、農村部保健所の医師・看護師へのリハビリテーション訓練、家族やボランティアに対するケア訓練の実施と定期的なフォローの実施等の取り組みを行ったことを発表しました。
 東日本大震災については、現地の障害当事者や支援団体、機関の5名の方々に災害発生後の生活や現在の状況について話しをしていただきました。

 ③全国脊髄損傷者連合会 岩手県支部副支部長の日當万一氏は、ご自身も地震の際には車の中で過ごすことになり、寒さの中で体温調節ができないために体調を崩されたそうですが、岩手県内の仮設住宅で生活する脊髄損傷の方達を訪問・聞き取りされて、避難所もさることながら、仮設住宅や避難用に利用された住宅でも、トイレや浴室が車いす使用者が使えない造りで、手すりやスロープも実際には使えないため、一人では移動できない現状で生活していることを具体的に説明していただきました。障害のある人達に対する災害対応マニュアルについても、市町村と県の間での手続きが合理的でない事の指摘と、様々な障害関係者の意見を取り入れてマニュアルを整備して欲しいと要望を述べられました。

 ④宮城県ろうあ協会事務局長の浅野順一氏は、聴覚障害等の方々の安否確認を行ったところ、宮城県で亡くなった聴覚障害の方々は津波によるものがほとんどであったと発表されました。避難所での生活においては聞こえないために他の方達に誤解を受けるなど、どのように行動してよいかわからずストレスを感じているとの事です。情報保障については手話通訳を全日本ろうあ連盟の協力により配置し、その後は県と聴覚障害者協会が聴覚障害者に情報発信・提供・相談支援を行う組織を作り活動しているが、特に行政とのコミュニケーションを行えるように、窓口に手話通訳者を配置するようにと述べられました。

 ⑤視覚障害者支援の立場から、日本盲人福祉委員会の東日本大震災視覚障害者支援対策本部事務局長の加藤俊和氏は支援団体として把握している現状について報告されました。東北地方は高齢者世帯の割合が高く、視覚障害のある方々の6割以上が高齢者である事と、避難のための移動、避難所の環境、情報伝達における不自由さ(張り紙による連絡等)の中で生活していることの紹介、障害のある方々への支援をするために必要な情報が個人情報保護のために開示されず、支援が必要な方々のことが後になってわかってくるという問題点が指摘されました。

 ⑥宮城県リハビリテーション支援センター所長の樫本 修氏は、特に沿岸部では役所自体が被災して障害のある人々の情報がなくなり、状況把握が困難であった事と、被災により新たに障害手帳をとることになった人達、リハビリテーションやデイサービスが行えないため2次的障害がおきた人達がいる事を紹介されました。
活動については他の組織と協力しての福祉用具の提供、避難所を訪問しての補装具相談を実施した事、災害時の急性期医療におけるリハビリテーション専門家の関わりの重要性について述べられました。

 ⑦当センター発達障害情報・支援センターの言語聴覚士の東江浩美氏は、Webによる発達障害児・者支援に関する災害時の初期対応についての情報発信活動を紹介しました。避難生活の中で、発達障害のある人に対して周囲はどのように接すればよいか具体的に情報を提供し、コンピュータが使用できないことも考慮してリーフレットでも配布し、現在は被災県の発達障害のある人とその家族への調査を実施しており、生活の現状、不安等についてまとめ、今後の災害対応に活かしたいと述べました。

 今回、被災地から障害当事者、支援者にリハセンターに来ていただき、直接話しを聞けたことはセミナー参加者にも大きなインパクトとなったことと思います。今現在も不便な日々を送っている障害のある方々やその家族への支援についてできる事はないか、また、大地震は今度別の場所でおこる可能性もあり、提言された事柄をこれからに備えてどう活かすか、当センターにも求められていると感じました。

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