東京都作業療法学会 ワークショップ開催報告

研究所 滝沢 典子 中村 美緒 井上 剛伸
信州大学医学部保健学科 上村 智子

平成23年11月6日、首都大学東京(東京都荒川区)にて第8回東京都作業療法学会が開催されました。
これは年に1度、東京都の作業療法士会によって企画・運営され、毎年決められたテーマに沿って、シンポジウムの開催や様々な分野の作業療法士による口述・ポスター発表などが行われるものです。今年は、例年になく盛況で合計160人ほどの作業療法士が参加しました。
今年のテーマは、「東京スタイル」。東京という都会的・先進的な街を舞台に、作業療法士はリハビリテーションの分野において、常に新しい視点・発想を求められます。そんなアイデア溢れる、ユニークな発表が数多く見られました。

その中で今回、国立障害者リハビリテーションセンター 研究所が中心となり、「福祉機器を用いた認知症者の自立(自律)」というテーマでワークショップを開催しました。福祉機器開発部の井上・滝沢・中村、そして共同で研究を進めてきた信州大学医学部保健学科の上村智子氏とともに、電子カレンダー・服薬支援機器・情報支援ロボットの3つの機器を紹介し、参加者には実際に機器を触ってもらいながら、作業療法士から見た機器の有効性と関わり方について意見交換を行いました。

電子カレンダー(写真1)は、一日のスケジュールを呈示し、アラーム等で知らせるもので、当研究所で開発したものを紹介しました。服薬支援機器(写真2)は、決められた時間にアラームが鳴り、決められた量の薬が取り出せる機器で、今回は国内で実施している機器の効果検証の現状について、上村氏から報告していただきました。そして、情報支援ロボット(Papero NEC社製:写真3)は現在、当研究所を中心に開発を進めているもので、その機能や研究内容について紹介しました。 

写真1 電子カレンダー 写真2 服薬支援機器 写真3 情報支援ロボット
写真1 電子カレンダー 写真2 服薬支援機器 写真3 情報支援ロボット

ワークショップの参加者は、認知症のみならず身体障害・精神障害・発達障害など様々な分野に従事する作業療法士20名ほどで、臨床経験の豊富な方もたくさん参加していただきました。
ディスカッションでは、参加者に3つのグループに分かれていただき、上述の3つの機器を、だれに・どこで・どのように使用してもらうことができるか、また作業療法士としてどのように関わることができるか、機器の機能を最大限活かすにはどうしたら良いか、みんながアイデアを出し合い議論が進められました。ディスカッションで得られた結果を以下に示します。
電子カレンダー
  ・だれに: 認知症者・発達障害者・高次脳機能障害者。
  ・どこで: 軽度の場合、居間などの日中の居場所。
重度の場合、寝たきりなどでも視界に入るベッドサイド。
  ・どのように: 日時や一日のスケジュールを表示して、それをいつでも確認できるように。
軽度の場合、文字情報を表示し、自分で確認し日中の活動を促す。
重度の場合は絵や写真・動画を使用し、時間の確認をしたり、家族や面会者がメッセージを残し、日中の覚醒を促す。また、馴染みの歌を入れるなど、刺激を与える。
  ・作業療法士の関わり方: ご本人・家族・ケアスタッフを含め、対象者の状態像に応じた使い方の支援をする。ご本人の生活満足感・自己効力感の評価を行う。
 
服薬支援機器
  ・だれに: 具体的な事例をもとに、パーキンソン病の妻・認知症の夫という老々介護で暮らしている高齢者夫妻。
  ・どこで: 自宅内。
  ・どのように: 身体機能の低下した妻の促しにより代わりに夫が機器から薬を取り出し、夫自身の薬とともに二人で飲む。妻は夫の認知機能を補い、夫は妻の身体機能を補うことで、相互作用が働き、二人の服薬の自立につながる可能性がある。
  ・作業療法士の関わり方: 適切なユーザーの抽出とどのような場面で使用するのか、また使用可能なレベルを判断する。
 
情報支援ロボット
  ・だれに: 一人暮らしの認知症の方
  ・どこで: 自宅を含め、つながりを持つための地域
  ・どのように: コミュニケーションツールとして。また、地域包括支援センターを拠点に、安否確認や情報入力を遠隔操作で行なう。
  ・作業療法士の関わり方: ご本人のニーズが満たされているかどうかの確認をする。家族の負担感の変化を評価し、機器が有効に使われているかを判断する。

実際に参加者からは、臨床現場で経験した事例をもとに、具体的な導入方法や機器を使用する対象者の生活支援のあり方について、とても多くの意見が出されました。また、機器を使用した対象者の生活や環境変化ばかりではなく、自己効力感や生活満足感などの心理面・精神面の変化に関する具体的な視点が出されたのは、我々としてもあまり想定していなかったものです。更に、機器を使用する対象者ばかりでなく、ケアする側・家族に対する評価や関わりにも着目し、1つの機器を取り巻く状況を多面的に見ているという、作業療法士の特徴が分かりました。これらも、様々な分野で様々な疾患・障害を対象とする作業療法士だからこそ、幅広い視点を持った意見や考えが挙がり、とても活発なディスカッションになったと思います。

写真4 ワークショップの様子
   写真4 ワークショップの様子

同時に、今回の学会の会場において機器展示も行いました。ワークショップで紹介した3つの機器に加え、国立障害者リハビリテーションセンター内の「認知症のある人の福祉機器展示館」に展示している機器の一部を紹介し、多くの方に来場していただきました。来ていただいた方はみな非常に興味を示し、実際に臨床で使いたいと問い合わせを頂いたケースもありました。

今回、ワークショップ・機器展示ともに、多くの作業療法士に研究成果を報告し、開発中の機器を知ってもらうことに加え、臨床現場からの経験や知恵を知る機会を得て情報交換ができたことは、有意義でした。それと同時に、福祉機器開発に作業療法士の視点を活かすことも重要であるということを認識する良い機会になりました。

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