〔トピックス〕
第17回 国連障害統計に関するワシントン・グループ会議に出席して
研究所障害福祉研究部 社会適応システム開発室長 北村弥生

 2017年10月31日から11月2日に、オーストラリアのシドニーで開催された第17回国連障害統計に関するワシントン・グループ会議(以下、WG)に参加したので、今回の進捗4点について報告します。WGは国際比較を可能にする障害統計尺度をICFに基づいて開発することを目的にしています。図1にWGがこれまでに開発した指標(短い質問群、拡張質問群、子ども機能モデュール)、現在開発中の指標(教育環境モデュール、労働環境モデュール、精神的生活機能モデュール)とICFの関係を示しました。これまでの同会議の成果は文献をご参照ください。
 第一に、環境因子と参加の尺度として開発中の教育モデュールと労働モデュールの進捗が報告されました。教育モデュール案は、障害のある子どもだけを対象としないこと、学校に通っていない子どもも対象とすること、親または養育者が回答することを前提としました。同モデュールは「態度」「アクセシビリティ」「費用負担」の3領域からなる原案について、米国、インド、ジャマイカ、カンボジア、カザフスタンで質的な調査を終え、量的調査の計画が説明されました。同様の枠組みで開発中の労働モデュールは障害者本人が回答しますが、「バリア」「態度」「配慮」「社会的保護(年金支給が労働意欲の阻害になっていないか)」の4領域に関する設問が提案され、インドでの質的調査が1月に計画されていることが報告されました。
 第二に、精神的健康に関するワーキンググループの検討結果として、すでに開発された拡張質問群における「憂鬱depression」と「不安anxiety」に関する指標について、米国、インド、カメルーン、カナダ(Canadian Community Health Survey,対象者25113名)の統計の二次解析から国により結果に差があることが示され、①憂鬱と不安の両設問が必要、②頻度と程度の両設問が必要、③服薬の設問は障害の有無の判定には不要、④頻度と程度の組み合わせによる閾値レベルの設定が推奨されることが報告されました。また、精神的健康の指標に「社会性social functioning」が欠けていることに対して、重度精神障害、知的障害、認知症も含むことを意識して、既存の指標の検討を継続することが承認されました。さらに、ワーキンググループの名前を精神的健康から心理社会的機能に変更することが承認されました。
 第三に、各国の障害統計の紹介では、オーストラリア、ニュージーランド(General Social Surveyと国勢調査)、ベトナム、タイが、WGの指標と各国の指標との結果の違いと共に翻訳と実施方法の課題を報告しました。翻訳と実施方法の課題に関しては、事務局から、設問の意図やこれまでに蓄積されたQ&A集が公開されました。
 第四に、WGが開発した拡張質問群を、米国健康面接調査(NHIS:2013,18歳以上サンプル数16,750)で使用した結果から、データの分別方法の進捗が報告されました。拡張質問群には、短い質問群の6領域に、「上肢」、「情動(「不安」と「憂鬱」)」、「痛み」、「疲労」領域が加わり、それぞれの領域に2〜9の設問が含まれます。
NHISで使用した合計11領域25問をWG-ES1、「不安」と「情動」を除いた9領域20問をWG-ES2、短い質問群6問に「上肢」、「情動(「不安」と「憂鬱」)」を加えた9領域12問WG-ES3として、「かなり苦労する」および「全くできない」の割合が示されました(表1,2)。
 会場は前年12月にダーリングハーバーに面して建設されたシドニー国際会議場で、オーストラリア外務省の後援を得て、円滑な運営が印象的でした。オーストラリアからは当事者の参加もありました。市内にあるオーストラリア博物館は、日本では珍しい有袋類の標本を豊富に所蔵するほか、先住民アボリジニのコーナーも充実しており、イギリスとオーストラリアがオーストラリア西部と中南部で行った核兵器実験と除染に関する展示も含まれていました。

※過去のWG会議の参加記録も、国リハニュースおよび国リハホームページに掲載されています。また、WG会議でのプレゼン資料も国連WG会議のHPから公開されています。
https://www.cdc.gov/nchs/washington_group/index.htm
http://www.washingtongroup-disability.com/

画像:国際機能分類モデルとワシントン・グループの指標との関係
図1 国際機能分類モデルとワシントン・グループの指標との関係(Daniel Mont氏による図を改変)

表1 米国NHISの結果における「障害者」の定義と
割合の比較 1
「障害者」はn%
少なくとも1領域で「 多少苦労する」 を選択した751141.9
少なくとも2領域で「 多少苦労する」 を選択した367219.6
少なくとも1領域で「 かなり苦労す る」 を選択した18729.5
少なくとも1領域で「 全くできませ ん」 を選択した4652.2
(Mitchell Loeb氏による表を仮訳)
表2 米国NHISの結果における「 障害者」の定義と
割合の比較 2
「障害」 の定義に使う領域数と質問数 n%
WG-SS 6領域/6問18729.5
WG-ES1 11領域/25問350317.7
WG-ES2 9領域/20問310415.4
WG-ES3 9領域/12問238411.9
(Mitchell Loeb氏による表を仮訳)