〔特集〕
学院における養成・研修の取組と卒業生・修了生の活躍

ろう者の言語である手話を学び、手話通訳士をめざす手話通訳学科
 手話通訳学科は平成元年に設置され、今年で28年目、これまで355名の卒業生を輩出してきました。当初1年課程でしたが12期生から2年課程となり、手話通訳士をめざす環境を整えてきました。手話通訳士試験は平均合格率が15.1%という難関ですが、当学科が2年課程になってからの15年間の卒業生215名の合格率は65.6%となっています。
 ろう者の言語である手話は、日本語とは異なる文法をもつ言語であり、言ってみれば「外国語」のようなものです。当学科では、その「外国語」を学ぶために、ネイティブ(母語話者)であるろう者から手話で直接学ぶ教授法を採用しています。また言語学習では、その言語「を」学ぼうとすると身につきにくく、その言語「で」何かを学ぶほうが効果的ということがあるため、実技はもちろん、理論科目についても、ろう者の専門家がいる分野については、できるだけろう者から直接手話「で」学ぶことができるようにしています。さらに、ネイティブの専任教官のほか、週一回以上授業を担当するろうの非常勤講師約10名と合わせて、常時数名のろう者がフロアにおり、学生はその空間では「声を使わず、手話で過ごす」というルールを課すことで、「まるで「留学」しているような環境」を実現しています。
 通訳技術の習得には徹底した少人数トレーニングを取り入れ、インターネットや動画を活用できる環境も整備しています。
 当学科の卒業生はさまざまな場で活躍しています。その活躍の場には、以下のようなものがあります。
・都道府県と政令市に設置が義務づけられている聴覚障害者情報提供施設
・地域で意思疎通支援事業を実施する自治体や社会福祉協議会
・聴覚障害者を雇用する企業
・聴覚障害者にサービスを提供する企業
・聴覚障害者の学習を支援する大学
・聴覚障害児を対象とする特別支援学校(ろうの教職員の支援を含む)
・ろう高齢者のための老人ホーム
・ろう重複障害児・者を支援する施設
・民間の通訳エージェンシー
 このような活躍の場のいくつかについて、卒業生に紹介してもらいましょう。
(社福)横浜市リハビリテーション事業団 障害者スポーツ文化センター横浜ラポール聴覚障害者情報提供施設
画像:左から本間裕貴子さん(5期)、笹尾さん、竹内さん、伏原さん、見城晴子(14期)さん 左から本間裕貴子さん(5期)、笹尾さん、
竹内さん、伏原さん、見城晴子(14期)さん
 施設長の竹内恵子さん(4期)のほか、聴覚障害支援員5名、非常勤職員1名が卒業生で、派遣・研修・相談事業や遠隔手話通訳などに従事しています。「大げさではなく、学院で学んだことすべてが今の私の人生に結びついていると感じています」(伏原桃子さん・12期)、「一言では言い表すことができないくらいいろいろなものを得られた充実した学院生活でした。学院で学んだこと、学院生活で得られたことが今のわたし自身の土台になっていると思います」(笹尾未喜さん・22期)。
所沢市社会福祉協議会 所沢市手話通訳・要約筆記派遣事務所
画像:正木さん(左)と小田部さん 正木さん(左)と小田部さん
 正木友里恵さん(25期)が手話通訳者の派遣や各種講習会の開催、聴覚障害者等への相談対応をしています。派遣事務所から他の部署へ移った卒業生も複数おり、前事務所長の小田部家成さんも卒業生(14期)です。学院で学んだことで役立っていることは「手話や通訳の技術はもちろん、仕事の進め方や、姿勢、考え方など、すべてです!」。
マツダ株式会社 人事室 労務グループ
画像:フィジカルチャレンジサポートデスクのメンバーのみなさんと(左から2番目が西尾さん) フィジカルチャレンジサポートデスクの
メンバーのみなさんと(左から2番目が西尾さん)
 多数の聴覚障害者を雇用する大手自動車メーカーで、西尾香月さん(17期)が社内専属手話通訳及び労務グループ内のフィジカルチャレンジサポートデスクで聴覚障害社員の支援や社内への啓発活動などを行っています。「学院で、手話は言語であること、ろう者は言語的マイノリティであることを理論的に学び、そのうえで「通訳技術」を学べたことが大きいです。卒業時、ろう者の先生に言われた「聴者とろう者の橋渡しになるように」という言葉を常に忘れないように通訳しています」。
民間の通訳エージェンシー(フリーランス)
画像:国立民族学博物館「みんぱく手話言語学フェスタ」で通訳に立つ荒井さん 国立民族学博物館「みんぱく手話言語学
フェスタ」 で通訳に立つ荒井さん
 荒井美香さん(14期)は民間の通訳エージェンシーに登録するフリーランスとして、学会やシンポジウムなどの学術通訳を中心に活躍しています。「学院で学んだことすべてが、私の手話通訳の土台となっています」。「最近、フィーダー(ろう通訳者との協働通訳)の活動をはじめました。ろう者と聴者が同じ通訳という立場で手話通訳について考えることで、新しい風が吹けばいいなぁと思っています」。