〔特集〕
学院における養成・研修の取組と卒業生・修了生の活躍

義肢装具学科の多種多彩な活躍と取り組み
沿革
 昭和57年4月、まだ義肢装具士の国家資格制度がなかった頃に我が国で初めて体系的な教育を行う3年制の養成校として義肢装具専門職員養成課程が開設されました。その教育方法は、当時世界の義肢装具養成教育において最先端であったアメリカのニューヨーク大学の方法と、日本で以前から行われていた方法を融合した、他国では類を見ない非常にユニークなものでありました。その後昭和63年の義肢装具士法施行に伴って義肢装具士養成所として厚生大臣より第1号の指定を受け、また平成11年4月より義肢装具学科に名称変更され現在に至っています。
教育理念
 障害のある方々のリハビリテーションの分野において、先駆的・指導的役割を担い得る専門職員を養成することが学院の教育理念であり、義肢装具学科では理論と技術の習得のみならず、最近では社会人基礎力の育成にも重きを置いています。これは学生の社会適応力の向上を目的としており、本学科から社会に出て行う「臨床実習」に着目して社会適応力という観点から目的意識をもたせ、その結果を面接によって評価・助言をしています。
入学定員及び応募の状況
 入学定員は10名で入学資格は高校卒業(大学に入学することができるものを含む)となっています。応募状況は過去5年間で年30〜50人程度となっており、定員に関しては開設以来充足している状況です。
特色
 まず挙げられるのがリハセンターに併設した養成校であるということです。身近に病院や自立支援局、研究所があるということは、他の養成校にはないアドバンテージになっています。各分野において第一線で活躍されているセンターの方々に講師として今臨床現場で求められているものを実際に御講義いただけることは学生にとって刺激になるとともに、教科書を読むだけでは知りえない知識を得ることができるという点で非常に恵まれている環境だと思います。当センターの病院、自立支援局、研究所には日頃より講師派遣や見学等で大変お世話になっており、この場をお借りしまして御礼申し上げます。
 また義肢装具学科教官につきましても病院リハビリテーション部及び研究所義肢装具技術研究部に併任し、臨床業務や研究開発活動にも携わっています。研究開発ではパラスポーツ用具も数多く手がけており、チェアスキーのバケットシート、アイススレッジホッケーのスレッジシート、ゴールボールのアイシェイド等、パラスポーツの発展に寄与しています。
 このように臨床業務や研究開発活動を通じて各教官が自己研鑽に努めていくことが学生に対する教育の質を高めるとこにつながり、臨床に即した授業を行うことを可能にしています。
画像:アイシェイド 画像:アイススレッジ 画像:チェアスキー
図1 パラスポーツ用具(左からアイシェイド、アイススレッジ、チェアスキー)

卒業後の概要
 卒業すると義肢装具士国家試験の受験資格が付与され、年1回行われる国家試験に合格することによって義肢装具士となることができます。開設以来、現在までの総卒業生数は299名(H29.3.31現在)、その全員が義肢装具士国家試験に合格し資格を取得しています。
進路状況
 開設以来の就職率は100%を維持しており、直近5年間の新卒者をみると卒業生全員が民間の義肢装具製作施設に就職しています。卒業生全体を見ても、その大多数が義肢装具製作施設で臨床業務に携わっており、日本で義肢装具を必要としている方々によりよいものを提供すべく日々汗を流しています。
 また当学科の卒業生の特徴として義肢装具士養成校の教官になる者が数多くいることが挙げられます。現在日本全国に大学を含めた養成校が10校11学科ありますが、その教員の約半数は当学科の卒業生で占められ、また大学教授については8名に上ります。
 海外で活躍する卒業生も多く、過去には青年海外協力隊やカンボジアの地雷被害者に対する義肢装具支援、現在ではゾウの義足で有名になったタイのチェンマイで職員として義肢装具の製作に携わる者、また同じくタイの王立大学医学部で教鞭を執る者もいます。
 その他就職ではありませんが、(一社)日本義肢協会、(一社)日本義肢装具士協会、(一社)日本義肢装具学会といった関係団体の会長、副会長、常任理事、といった要職に就くなど名実ともに業界の先駆的・指導的役割を担っている卒業生が数多くいます。
卒業生より
 第一線で働く卒業生の方から短いですが寄稿していただきましたので、最後にこれらを掲載して終わりたいと思います。
1994年度卒・第11期生
佐々木 一彦(タイ王立マヒドン大学)
画像:新入生歓迎会(筆者は写真最前列左から3番目) 新入生歓迎会(筆者は写真最前列左から3番目)
 私は国立身体障害者リハビリテーションセンター学院義肢装具専門職員養成課程を卒業後に夜間の大学に通いながら最初は非常勤職員として学院に、そして研究所補装具製作部(現義肢装具技術研究部)で正職員となり、都合14年間もセンターにお世話になりました。ここで義肢装具士として臨床のイロハを学んだことが私のその後の義肢装具士人生の糧となっています。
 センター退職後は神戸の義肢装具士養成校で教官として初めて教育に携わりました。学院時代にも授業には入っていましたが、助手という立場だったので実際に専任教官として教壇に立った時には非常に緊張したのを覚えています。
画像:マヒドン大学大学院インターナショナルコースの学生と(右が筆者) マヒドン大学大学院インターナショナル
コースの学生と(右が筆者)
 2011年からは田澤英二先生を顧問とする日本財団の義肢装具教育インターナショナルアップグレーディングコース設置プロジェクトの一員(講師)としてタイ王立マヒドン大学医学部に参加し、現在は同大学大学院インターナショナルコースの講師として在籍しています。そこでは近年の義肢装具のハイテクの応用とその教育だけでなく、新興国の特に地方に住む高齢者や補装具ユーザーの福祉の増進と社会参加促進の教育と研究を目指しております。
 私が学院にいたときに学んだグローバルな視点と研究所義肢装具技術研究部で培った経験を忘れずにこれからも精進していきたいと思います。
2012年度卒・第29期生
加古奈々恵(株式会社金沢義肢製作所)
画像:臨床実習中の国リハPO学科2年生松葉さんと。(手前・加古) 臨床実習中の国リハPO学科
2年生松葉さんと。(手前・加古)
 義肢装具士として5年目の秋を迎え、臨床現場での義肢装具士としての業務の他に、企業説明会に会社を代表して参加したり、各学校から臨床実習生を迎えて指導したり、中堅社員として会社を支えるような立場になりました。まだまだ男性義肢装具士が目立つ業界ですが、女性義肢装具士が長く活躍できる環境作りにも努めています。
画像:加古「国リハの後輩が実習に来てくれるのは励みになりますし、何よりも嬉しいです。」 加古「国リハの後輩が実習に来てくれるのは
励みになりますし、何よりも嬉しいです。」
 8月にPO学科の10年上の先輩から5年下の後輩まで全国各地から参加する女子会がありました。子育てしながら仕事をバリバリしている先輩や、試行錯誤しながら仕事を楽しんでいる後輩など全国で活躍する卒業生がそこにいました。私もその一翼を担いたいと日々仕事に励んでいます。