〔特集〕
障害福祉サービスにおける
脊髄損傷者・頸髄損傷者への取り組み
自立支援局第二自立訓練部

 国立更生援護機関の脊髄損傷者・頸髄損傷者 への取り組み(歴史的経過)
 身体障害者福祉法に、「国は、身体障害者更生援護施設を設置しなければならない」(同法第二十七条)とされ、国の脊髄損傷者・頸髄損傷者の更生援護(リハビリテーション)は、国立身体障害者センター(肢体不自由者更生施設)と国立重度障害者センター(重度身体障害者更生援護施設)で行われました。昭和54年7月国立身体障害者センターは国立身体障害者リハビリテーションセンター設立により更生訓練所(自立支援局)と病院に統廃合されました。職員配置基準にある医師、看護師、理学療法士、作業療法士は、病院の配置によることとし、入所者の医療、医学的管理は、病院医師の担当医制度により行われました。
 更生訓練所は、脊髄損傷者・頸髄損傷者等の入所者に職能訓練、職業訓練を行う「一般リハビリテーション課程」を行い、入所者宿舎東棟では日常生活が自立する者を入所させるため、脊髄損傷者等の機能レベルや個々の身体状況に対応する多様な形状の浴室やトイレなどの設備を整えていました。
 伊東・別府の国立重度障害者センター(国立保養所)は、昭和20年代半ばより重度身体障害者を入所させ医学的、心理学的な治療・機能訓練・職業訓練を行う施設でしたが、40年代半ばからは、頸髄損傷者の利用が中心となりました。
伊東重度障害者センターは、創設以来の終了者1243名(脊髄損傷者1004名 内頸髄損傷者は740名)でした。
 国の身体障害者更生援護施設は、平成18年10月1日障害者自立支援法施行により各県の指定障害者支援施設として新体系に移行しました。
更生訓練所の「一般リハビリテーション課程」は、就労移行支援(定員100名)と国立職業リハビリテーションセンターの就労移行支援相当サービスとなり、重度障害者センターは、自立訓練(機能訓練)、施設入所支援を提供する施設(定員70名)に移行しました。

 頸髄損傷者の自立訓練(機能訓練)、施設入所支援の開始
 平成20年10月、自立支援局(旧更生訓練所)において、頸髄損傷者の自立訓練(機能訓練)、施設入所支援(定員20名)が開始され、医師、看護師、介護福祉士、理学療法士、作業療法士が配置されました。
 平成28年7月から、伊東重度障害者センターを統廃合し、両センターの利用定員を合わせた90名の自立訓練(機能訓練)、施設入所支援が開始されました。

 サービス提供施設設備
 伊東重度障害者センター、入所者宿舎東棟の設備を参考として、旧病院新館、旧画像診断棟を改修し、利用定員90名のうち頸髄損傷完全麻痺50名 不全麻痺等立位者20名 通所利用20名の利用を想定した設備としました。
(1)機能訓練棟西:(旧病院新館)
1階利用者食堂、交流スペース、理学療法訓練室(プラットフォーム訓練用自動車)、職能訓練室、事務室、業務用洗濯室など
2階 車椅子者用居室(全室天井リフター設置)、支援ステーション、処置室、介護用トイレ、介護浴室、高床トイレなど
3階 車椅子者用居室(半数天井リフター設置)、個別浴室、高床トイレなど
4階 立位者用居室、立位者用集団浴室、多機能トイレなど
(2)機能訓練棟東:(旧画像診断棟)
 作業療法訓練室(訓練トイレ、訓練浴室、評価室、多目的室、工具室等)
(3)その他の訓練提供場所
 病院体育館:運動療法(スポーツ訓練)
 自動車訓練場:運転訓練(習熟訓練等)
 就労移行支援事務系訓練室:訓練部分の利用

 職員体制(支援に係わる職員)
 サービス提供の職員体制は以下のとおりです。看護師、介護福祉士は交替制勤務。
管理職(部長、課長)2名
サービス管理責任者2名(1名兼務)
医師(医務課長)1名(兼務)
医師2名(兼務)
看護師11名
管理栄養士1名(兼務)
事務職員1名(非常勤)
洗濯手1名(非常勤)
理学療法士5名
作業療法士5名
運動療法士1名
介護福祉士18名+3名(非常勤)
ケースワーカー4名
職能訓練1名
自動車運転訓練2名+1名(非常勤)
利用相談 総合相談課職員
※調理員、清掃員、警備員は、センター内一括契約。
※医療は、国リハ病院外来受診や地域専門病院受診による。
※給付費請求事務等は、支援企画課が他の事業と共に管理

 利用目的
 国リハ病院からは、自立訓練(機能訓練)の対象となる利用者の紹介があり、同一敷地内で医療から、機能訓練を行う福祉サービス、職業訓練までの連続したサービスの提供が可能となりました。地域によっては頸随損傷者のリハビリテーションを行う病院、施設の情報が無く、就労年代であっても、急性期後、回復期病棟や在宅に移行し、機能向上と社会活動の機会を逃している者もあると推測されます。
 利用目的は、支援者からの利用相談、本人、家族の見学などによって具体化していきますが、次の様なものが挙げられます。
 身体機能の維持・向上のための訓練、基礎体力の強化、粗大動作や応用動作の習得(社会生活やスポーツ目的)、機能レベルによる日常生活動作の習得、衣類の調整、機能に合った車椅子や自助具の作製、排尿、排便管理方法の検討と習得、拘縮・褥瘡・感染症など予防方法の習得、障害状況に応じた自立度の向上による介護度の軽減、機能レベルと生活スタイルに合った住宅改修、家庭復帰のための地域支援体制の構築(看護・介護等)、自動車運転免許の取得、免許更新後の習熟訓練、就労、復職、復学のための環境調整、公共交通機関の利用など日常生活支援による社会生活技能の向上。
 個々の機能レベルと生活環境に合わせどのような支援や訓練が利用者に適合するか、各専門職のアセスメントに基づき説明されます。

 利用期間と訓練目標
 利用期間は、障害者総合支援法に定められた自立訓練(機能訓練)の利用期間内で、アセスメントに基づく個別支援計画により市区町村の承諾を得られた期間となっています。自立訓練(機能訓練)の標準利用期間(給付費支給決定期間)1年6ヶ月のところ、頸髄損傷による四肢麻痺その他これに類する状態にある方は3年間となっています。
 伊東・別府の重度障害者センターと自立支援局機能訓練課では、各専門職が協調して訓練や日常生活の支援を行い、効率的な訓練方法や訓練目標、支援期間設定の検討を続け、頸髄損傷者の機能レベル(完全、不全麻痺)による獲得動作目標の基準作り行ってきました。平成26年には、Zancolliの機能レベルの分類によるADL獲得成果と獲得までの期間の標準化の検討をまとめ「頸髄完全損傷者クラス別ADL到達目標及び標準支援期間」(2014平成15年度〜平成25年末までの訓練終了者。基準該当者伊東93名別府103名リハ11名)を作製し活用を行っています。
例:C5B 【獲得動作】(◎可能 〇概ね可能 △可能性がある)手動車椅子での平坦な屋外移動◎ 手指の爪切り◎ 車椅子ベッド間前方移乗〇 下衣着脱△ (男性)収尿器の尿捨て・自己導尿◎ 【標準支援期間】24ヶ月

 日常生活の支援
 動作獲得が訓練場面だけでなく、居室等の生活場面で安全に安定して活用できるよう、訓練担当者が看護、介護に引き継ぎ、看護、介護は、宿舎環境の中で、家庭復帰に向けた視点により、排尿、排便その他健康管理支援や、日常生活動作訓練(ADL訓練)を行います。生活のなかで獲得された動作を元に、在宅生活の看護・介護の軽減を図っていきます。

 リハビリテーションマネジメントについて
 リハビリテーションマネジメントの基本的考え方についての通知では、利用者毎のアセスメント、目標設定、計画、モニタリング、医師の指示に基づくリハビリテーション実施計画書に沿ったリハビリテーションの実施、利用者又は家族への説明と同意を得ることが定められています。リハビリテーションは、理学療法士、作業療法士等だけが提供するものではなく、医師、看護師、介護福祉士、生活支援員等様々な専門職が協働し、また、利用者の家族等にも役割を担っていただいて提供されるべきものです。施設入所中も、常に在宅生活を想定してリハビリテーションを提供していくことが基本であるとしています。在宅生活の想定には、就学、就労、家庭役割の復帰などが含まれています。