〔トピックス〕
香港・成都におけるインクルーシブ防災セミナーに出席して
研究所 障害福祉研究部 北村 弥生

 2016年9月8日から15日に、香港と中国西部の成都で香港リハビリテーション協会(以下、香港リハ)と中国赤十字共催のインクルーシブ防災セミナーおよび周辺地域の視察に参加しました。香港リハは国リハ同様、WHO協力センターとして中国本土でリハビリテーションの啓発を行っています。1969年設立の歴史を持ち、病院は併設されていませんが、民間であることを生かして、バンによる移動サービス(図1)、
画像:香港リハ協会の移動サービス用のバン 図1 香港リハ協会の移動サービス用のバン
通所リハビリ、健康増進に加えて、高齢者を対象にしたサービスへの拡張を施設の新設に合わせて検討していました。その中で、障害者の災害対策に関心をもち、WHO協力センターの広報誌Joyning Handsに防災に関する特集を取り上げ、北京リハビリテーションフォーラムで防災分科会を主催するとともに(平成27年、28年)、今回のセミナーを企画しました。「インクルーシブ防災」は、2015年国連世界防災会議を機に河村宏氏(元研究所障害福祉研究部長)が先導して障害者関連組織が提唱した「すべての人に配慮する防災」です。聴覚障害のセルフヘルプグループで独自に行っている火災に対する避難訓練についても、セミナーでは紹介されました。
 香港リハは、四川大地震で障害を負った人へのリハビリテーション支援の必要が認識された時に、災害対策を専門とする香港および中国赤十字協会と共に、被災地での地域リハビリテーションを進めました。地震により町ごと移転し、バリアフリー化した住宅で、地震以前から車椅子を使う必要がありながら寝たきりだった人が外出や家事をできるようになった例が紹介されました。また、地震により軽度の障害を負った女性を中心としたグループ活動の支援や地域を訪問して専門職者をスーパーバイズする人材育成を継続していました(図2)。
画像:成都市郊外での地震体験者を対象としたグループワーク 図2 成都市郊外での地震体験者を対象とした
グループワーク
画像:成都市郊外にできた四川大學華西醫院 図3 成都市郊外にできた四川大學華西醫院
 成都は三国志の蜀の都だった古都で、四川省の州都です。中心部から車で2時間程度の郊外には、四川大地震後に大きなリハビリテーション病院が設立されました(図3)。 一方、成都市の中心部にある古い病院では、理学療法士資格を持つ医師は、省内のリハビリ医のネットワーク構築に取り組んでいました。両者共に、家族が泊まり込みで看護するのが当たり前、障害者の介護は家族がするのが当たり前という土壌の中で可能な支援を行っていました。
 国土の広さ、国の体制、医療制度、災害の頻度など、日本と中国には違いも多くありますが、WHO協力センターとしての共同活動のひとつとして障害者のための災害準備に関する知見を集積し、地震・津波・台風が頻発する西太平洋諸国に貢献することに意義を感じました。