〔特集〕
人材育成(研修・養成)
学院

はじめに

画像:義肢装具士養成棟
義肢装具士養成棟
 義肢装具士とは「厚生労働大臣の免許を受けて、義肢装具士の名称を用いて、医師の指示の下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合(以下「義肢装具の製作適合等」という。)を行うことを業とする者」と義肢装具士法に規定されています。その義肢装具士の養成を目的とした義肢装具学科は1982年に義肢装具専門職員養成課程としてその産声を上げ、開設以来34年が経過した2015年3月現在の総卒業生数は288名で、業界をリードする人材を輩出し続けています。

沿革

 資格制度確立以前の日本における義肢装具製作従事者の養成教育では、国立身体障害者更生指導所内に設置された補装具技術研修所の義肢課長である飯田卯之吉先生を主たる講師として実施されていた研修コースが有名でしたが、この時期の養成教育の中心的役割を果たしていたのは、徒弟制度における「親方と弟子」といった関係のもので現在のような体系的教育はまだ行われていませんでした。
 そのような時代背景の中、日本で初めての体系的な教育を行う養成校として当課程は開設されました。その教育方法は、当時世界の義肢装具養成教育において最先端であったアメリカのニューヨーク大学の方法と、日本で以前から行われていた方法を融合し、他国では類を見ない非常にユニークなものでありました。
 しかし、関係業界の期待を一身に担って開設した当課程でしたが、当初はまだ義肢装具士法成立前、つまりまだ国家資格が存在せず「義肢装具士」という資格名称も我が国には存在しない時期でした。その後1988年に法律が制定されましたが、それは1期生が卒業した4年後のことでした。
 義肢装具士法成立後、私立の義肢装具士養成校が各地で開校し、現在全国に10校11学科、そのうち大学が4校、3年制の専門学校が6校、4年制の専門学校が1校あります。その教員の半数以上は当学科の卒業生で占められており、また日本義肢協会、日本義肢装具士協会、日本義肢装具学会といった関係団体の理事といった要職に関しても約半数を占めるなど、名実ともに業界をリードしていく人材を供給し続けているといっても過言ではありません。

学科概要

 当学科の修業年限は3年で、学年定員10名、入学資格は「大学に入学できる者」とされています。卒業すると義肢装具士国家試験の受験資格が付与され、年1回行われる国家試験に合格することによって義肢装具士となることができます。
 入学希望者は2016年度で40名、倍率は4倍、国家試験の合格率及び就職に関しては開設以来100%となっています。

カリキュラム、教育体制

 義肢装具士養成校のカリキュラムの大枠は法律で規定されていますが、各学校によってある程度自由に科目設定が認められてはいます。当学科の教育内容は基礎分野390時間、専門基礎分野825時間、専門分野2100時間(含臨床実習495時間)の3つに大別され、3年間で3315時間、単位数で114単位となっています。
 基礎分野では物理学や外国語、専門基礎分野では解剖、整形外科、リハビリテーション医学などの医学系科目や機構学、材料学といった工学系科目、そして専門分野で義肢装具全般を学ぶ形になっています。製作のみに特化したカリキュラムにするのではなく、義肢装具士は医療職であるという観点から生体についての理解と義肢装具の器械としての理解、そしてそれらを一本化することが重要になります。よって医学系と工学系を基礎に履修し、更に専門科目を履修することになっています。
 講師陣にはセンター内部の講師は勿論のこと、外部からも講師をお迎えし、各分野における一流の講義を提供しています。それは「その道のプロフェッショナルの方々」という意味だけではなく、今臨床現場で求められているものは何かを実際にご講義いただけるといった意味合いを持つため、当学科の教育環境は非常に恵まれているといえます。
 いろいろな変遷はありつつも時代に即した教育を提供し、かつ義肢装具士養成教育の基本を外すことのないようなカリキュラムを編成しています。

研修

 研修についても当センターの果たした役割は非常に大きく、前身の国立障害者更生指導所時代の昭和31年に厚生省社会局主催で第1回の義肢技術講習会が行われ、その内容は当時最先端であった吸着式大腿義足でした。その他にも海外の先進技術を導入する際にはまずこの研修会から、というほど日本の義肢装具業界において非常に重要な研修会を開催してきました。
 その重要性は国立身体障害者リハビリテーションセンターになってからも変わらず、電動義手、靴型装具、座位保持装置といった他では行っていない、もしくはできない種目について先んじて研修会を開催し、知識や技術の定着を図るといった役割を担ってきました。現在では目的を「義肢装具士の現任訓練のため、必要な専門的知識と技術を習得させること」とし、「義肢装具士研修会」と名称を変えながらも連綿と続いています。
画像:研修会風景(靴型装具)
研修会風景(靴型装具)
 近年では年1回開催として座位保持装置と靴型装具を隔年で実施しています。そのどちらの内容も養成校のカリキュラムに含まれてはいますが、実際に授業では深いところまで教えることのできない、いわばアドバンス的な内容で研修会を開催しています。

 以上学院義肢装具の養成・研修について述べてきましたが、つまりは当センターの義肢装具関連部門の歴史がそのまま日本における義肢装具の発展及びそれに従事する者の歴史となっています。現在義肢装具士の国家試験合格者数は延べ4708名であり、決して多い数とはいえません。今後も日本の義肢装具の分野を先導できる人材を養成していきたいと思います。