〔特集〕
高次脳機能障害と移動支援
企画・情報部 高次脳機能障害情報・支援センター 今橋久美子

  認知や行動に支援を要する方の移動については、多くの場合家族が付き添い、自家用車で送迎しているのが現状です。もちろん公共交通機関や、市町村などによるガイドヘルパー事業もありますが、場所によっては路線や運行本数あるいは条件が限られ、いつでもどこでも利用できる状況には到っていません。移動に支援を必要とする方にとって、支援者や手段の獲得は社会参加を大きく左右しているといえます。
 ところで、もっとも単純な移動支援とは、「Aさんがある区間を安全に移動するために、Bさんが付き添う」ことですが、必要に応じて、道を思い出す手がかりや乗りすごしアラームの利用、(半側空間)無視側の外傷予防、所要時間の見積もり、電車のルート検索といった要素が加わります。またそれらの作業を「Aさん自身が行ってBさんが見守る」のか、「Bさんが常に行う」のか、「いずれはAさんが独りで行う」のかなど、Aさんが目指すところにBさんがどのように関わるかも考慮すべき事項でしょう。単独移動を目標とするならば、不測の事態への対応も、「駅の係員に尋ねる」「家族に電話する」など、決めておく必要があります。またBさん以外の支援者に替わる場合には十分な引き継ぎが不可欠ですし、Bさんの役割を機器や街中のインフラが代行するならば、使い慣れるまでは誰かの確認が要ります。言い換えれば、引き継ぎが確実であれば必ずしもBさんでなくてもいいし、機器を含めた環境が認知・行動を支えることでAさんの行動範囲が広がる可能性があります。実際に独りで海外旅行するようになった方もいます。
 一方、行動に関しては、欲求や感情のコントロールができない状態が日常的に見られるケースで、人混みや満員電車の中で体がぶつかったり、足を踏まれたりすることがきっかけで大げんかになり、警察に通報されて加害者になることも少なくありません。まずは人の多い場所や時間帯を避けるのが原則ですが、混雑に関係なく疲れがたまると怒りやすくなるなど、日頃の行動から予測される事態もあります。それ以外にも、外出準備(服装、持ち物、金銭の確認)、途中の買物、トイレの利用、公共マナーなどに配慮が必要な場合があります。声をかけないと出発時刻に寝間着を着ていたり、途中で予定外に衝動買いしてお金が不足したり、通りすがりの異性に不適切に触れたりと、短い移動でもトラブルが起きることはあります。
 このような状況から、多くの病院や支援施設では、高次脳機能障害のリハビリテーションプログラムに移動支援を取り入れています。今号の国リハニュースでも、移動訓練の実例と研究成果を紹介しています。高次脳機能障害情報・支援センターでは、高次脳機能障害者の移動支援を生活支援のひとつとしてウェブサイト(http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/how06-1/#tab01)で解説しています。平成26年2月には、全国の支援コーディネーターが集う場を設け、自動車運転や公共交通機関の利用について各地の取り組みを共有しました。また、環境や支援機器についてもシンポジウムを開催し、利用者・支援者・開発者に講演していただきました。その資料も同サイト(http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/data/brain_fukyu-1/)に掲載していますので、是非参考にしてみてください。
写真1:各地の取り組みの報告 写真2:事例検討会で移動支援について話し合い
各地の取り組みの報告 事例検討会で移動支援について話し合い
写真3:公開シンポジウムの様子
公開シンポジウムの様子