〔トピックス①〕
第13回 障害者の統計に関するワシントン・グループ会議に参加して
研究所障害福祉研究部 我澤 賢之

 2013年10月29日から31日までヨルダンの首都アンマンで開催された障害統計に関する国連ワシントングループ(The Washington Group on Disability Statistics: WG)の第13回会議に参加しましたので、報告いたします。
 WGは、国際比較可能な障害統計に関する統計的かつ方法論的な作業の必要性を示した2001年6月の障害の測定に関する国際連合国際セミナーの成果を受け、設立されました。2002年にワシントンD.C.で開催された第1回会議以降ほぼ年に一度会議を開催し、ICF(国際生活機能分類)の概念に基づいて各国の障害者数を統一された基準で測る統計ツールを開発しています。
 今回の第13回会議は、ヨルダンの障害者高等評議会(Higher Council for the Affairs of Persons with Disabilities: HCD)の主催で開催され、22ヶ国の代表とUNICEFの代表の方などが参加しました。情報保障のため、手話通訳、アラビア語-英語間の同時通訳がつきました。
 開会式では、視覚障害のある小さな子ども達によるヨルダン国歌斉唱、モハンマド・アブ・ロンマン氏のコーラン詠唱、ヨルダン首相のアブドラ・エンソール閣下、障害者高等評議会総裁のラード・ビン・ゼイド殿下、WG議長のジェニファー・マダンス氏の挨拶がありました。
 WGで開発している統計ツールには、6つの質問からなる短縮質問セットとその他いくつかの拡張質問セットがあります。
 短縮質問セットはWGのホームページで公開されています。見ること、聞くこと、移動(歩く・登る)、認知(記憶・集中)、セルフケア、コミュニケーションの6つの項目それぞれに各1問ずつ困難さを尋ねる質問が用意されています。 回答は四択式で(1)いいえ、苦労はありません、(2)はい、多少苦労します、(3)はい、とても苦労します、(4)全くできません、から選択します。(3)・(4)のいずれかを回答した場合その項目に関する障害があると集計する方法をWGは提示しています。二択式だと低・中所得国で障害者数が実際より小さめに出るのが、この方法だと解決できるようです。
 設問や回答の選択肢数を修正した国も含めて、国勢調査で21ヶ国、調査(全数調査でない)で22ヶ国の短縮質問セット導入結果が示され、アルゼンチンの調査事例報告がありました。
 拡張質問セットについては、機能に関するもの(ES-F)、子どもの機能と障害に関するもの(ES-C)とメンタルヘルスに関するものについて議題に挙がっていました。これらの拡張質問セットはまだ開発段階にあります。
 機能に関する質問セットは、短縮質問セットに項目・質問を追加したもので、見ること、聞くこと、移動、コミュニケーション、認知、セルフケア、上肢、感情(不安と鬱)、痛み、疲労の10項目、計数十問の質問で構成されています。会議では、米国の国民健康面接調査(NHIS)の報告があり、回答結果から障害の有無を判定する方法について検討されました。
 子どもの機能と障害に関する設問については、見ること、聞くこと、歩くこと、セルフケア、コミュニケーションと理解、学習、感情、行動、注意、変化への対応、関係性の11項目に分類された質問セットを構築中です。この質問セットの回答者は当事者の子どもではなく親などがであることから、代理回答上の問題が検討されました。認知テストを実施したオマーンからの報告では、質問数の節減や言語・文化の違いによる質問翻訳上の課題について述べられました。この冬から来年にかけてこの質問セットのテストが実施される予定です。
 メンタルヘルスに関しては、測定する目的や方法の定義付けとヨーロッパの先行事例の検討をしたうえで、メンタルヘルスの指標と生活の質や健康と満足の質の指標との関係についての考察、WGで定義している重度精神障害と一般的精神障害の両方を質問セットの対象に含めるかの検討が行われる予定です。
 開催国ヨルダンは中東の立憲君主国です。首都アンマンは長い歴史を持ち、イスラム風の建物に混ざってローマ時代の遺構も残っています。
 会議前日空港からアンマン市街へ向かう車の窓外には、この街のうねるような地形が広がっていました。斜面に並ぶ建物の明るい土色の壁が雲一つない青空に映え、美しく感じました。
 市街に入って、こと幹線道路沿いの区域では自動車がわんさかびゅんびゅん走り、バス・タクシー待ちの人が大勢いて、賑々しい様子でした。街を歩く女性の頭髪を覆う布(ヒジャブ)や、早朝モスク(イスラム教の礼拝堂)の拡声器から大音量で流れる礼拝を呼びかける祈りの言葉(アザーン)、礼拝日の金曜日には大半の商店が閉まっているショッピングモールに、ここがイスラム圏であることを実感しました。
 今回空き地や歩道橋上で散乱するゴミ・落書きは見かけたものの、アンマンはまずまず平穏のように思えました。しかし、ある日のお昼休憩時、会場で背の高い穏やかそうな青年に話しかけられました。私が「どちらからいらしたんですか?」と聞いたところ、彼はこう答えました。「シリアからです。シリアをご存じですか?」
 ここアンマンからほんの北東70キロで国境を接する隣国シリアでは内戦が続き、多くの人が亡くなり続け、200万人を越える人々が難民となっています。この8月、一時米国がシリアを空爆する可能性を示唆したことも記憶に新しいです。この青年や彼の近しい方にも、おそらく色々あったことでしょう。彼の母国シリアに早く平穏が訪れて欲しいとは思う一方で、彼の問いにどんな言葉を口にしても嘘になるように思いました。心に残るできごとでした。
写真1:会議場でのプレゼンテーション
会議場でのプレゼンテーション
写真2:アンマン市街の高所から見た立ち並ぶ建物
アンマン市街の高所から見た立ち並ぶ建物
写真3:シリアの青年が撮ってくれた筆者の写真。右は会議会場のホテル。
シリアの青年が撮ってくれた筆者の写真。右は会議会場のホテル。


WG ホームページ
http://www.cdc.gov/nchs/washington_group.htm