〔研究所情報〕
世界自閉症啓発デー2011・シンポジウム
『災害と自閉症〜共に支え合い、共に生きる〜』
に参加して
発達障害情報センター 金 樹英


 2011年6月18日に東京霞ヶ関にて世界自閉症啓発デー・シンポジウムが行われました。国立障害者リハビリテーションセンターからも発達障害情報センターが参加し、日本発達障害ネットワーク(JDDネット)の被災地派遣チームに随行した鈴木さとみが報告を行いました。発達障害情報センターでは震災後、発達障害児・者の家族や支援者向けに支援のポイントをホームページで発信したり、リーフレットを作って配布してきました。そういった活動の妥当性の確認と、今後どのような情報発信が必要とされるのかを探る目的で参加したシンポジウムでした。
 2007年の国連総会で4月2日を「世界自閉症啓発デー」(World Autism Awareness Day)とすることが決議されて以来、日本でも世界自閉症啓発デー・日本実行委員会が組織され、自閉症をはじめとする発達障害について広く啓発する活動を行っています。毎年4月2日にはシンポジウムが開催され、今年も第3回目が4月2日に行われる予定でした。しかし、3月11日の大震災のために延期となり、急遽、テーマも「災害」に変更して今回開催にこぎつけました。
 プログラムは『被災地からの報告』、『支援者からの報告』、『今後の課題についてのシンポジウム』という構成でした。『被災地からの報告』では、岩手県、宮城県、茨城県、福島県の自閉症協会からの報告がありました。被災後一週間は自分たちの生活を立て直すだけで精一杯だった、役員自身が自閉症の子どもや介護を要する老親を抱える主婦ばかりで会員の安否確認までに時間がかかった、というお話や、自閉症の子どもが待てなかったり留守番ができないため物資調達が大変だった、学校も休みでレスパイト先がない、避難所にいても自宅にいてもそれぞれに質のちがう大変さがある、避難所を利用できたのは自閉症協会の会員の半数ぐらいだった、自閉症児・者は強い不安感から幻覚やフラッシュバックや不眠、こだわりの変化があった、という報告など生の声で聞くことができたのは有意義でした。
 午後一番は仙台市立大沢中学校特別支援学級の卒業生を中心にその他の特別支援学校の卒業生や在校生で結成されているバイオリンやチェロなどの弦楽器中心の合奏団、『おお宙(おおぞら)ストリングス』の演奏でした。メンバーの「仕事先で震災にあい雪道を6時間歩いて帰った。途中でもらったおにぎりのおいしさが忘れられずどうしたら復興に役立つことができるか考えている」というメッセージの後に『きらきら星』『夕焼け小焼け』など童謡の演奏が続き、「毎日寄っていたパン屋さんもお店もなくなってしまった」、「演奏を聞いてもらって日本中の人に元気になってほしい」などのメンバーからの一言メッセージが間に入りながら『上を向いて歩こう』『ふるさと』『浜辺の歌』『見上げてごらん夜の星を』といった日本の名曲が次々に演奏されました。後半いつの間にかじーんとなってしまったのは私だけではなかったようです。震災からの3ヶ月を振り返り、いろいろな思いがこみあげてきて聴衆それぞれに涙していました。思いがけず久々に心を洗われたひとときでした。
 その後、『支援者からの報告』では5人の演者の発表がありました。市立札幌病院静療院の児童精神科医である河合健彦氏が、「子どもの心のケアチーム」として気仙沼に赴いた体験を率直な感想とともに報告されました。過去を整理して未来につなげていくという喪の仕事が、現在の混乱状況のために被災者一人ひとりで異なる進捗度にあること、あまりに過酷な体験は共有するものではなくある程度の心的距離が必要、「支援」というよりは「共働」である、という言葉が印象に残りました。
 その後はシンポジウム『共に支えあい、共に生きるために〜現在の課題、これからの課題〜』と題して5人の演者が発表しました。宮城県特別支援教育センターの辻誠一氏からは、小中学校が避難所となった場合の問題や課題について、教職員自身が被災しておりこれから本当の心のケアが必要であること、学校の正常化が復興への鍵で教師には判断力、行動力、総合力が求められる、という話がありました。自閉症の子を抱える家族が避難所にも入れず車中泊を続けているという記事を書いた赤井陽介記者(朝日新聞社)は、震災直後に現地入りして避難所を巡った際には発達障害者の存在にも問題にも気づくことができなかったと自戒されていました。また、個人の善意に頼るのではなくシステムとして障害者を守るしくみが必要であり「同じ境遇の人が集まる避難所を」と強調されていました。山梨県都留児童相談所の近藤直司先生からは、被災地はただでさえ自殺率の高い地域なので自殺予防対策の必要性、遺族や遺児のケアや声にならないSOSをキャッチできるのは地元の支援者であり「支援者を支援する」必要性、などを強調されていました。
 自分ができる「少しのこと」を惜しまないことが大切というメッセージが何度か聞かれ、発達障害情報センターのメンバーとして勇気付けられるシンポジウムでした。

ポスターは、世界自閉症啓発デー2011・シンポジウム『災害と自閉症〜共に支え合い、共に生きる〜』