〔巻頭言〕
高次脳機能障害支援
モデル事業を終えて
学院長 中島 八十一



 高次脳機能障害支援モデル事業はこの3月をもって終了した。後日談を語るにはまだ生々しきに過ぎることも多く、 さらにこれから高次脳機能障害支援普及事業として、全国展開を図ることを思えば、一旦ここでは当センターが果たし 得た役割を中心に、事業の顛末につき簡潔に触れておきたい。
 モデル事業を請け負うに当たり、高次脳機能障害が身体障害ではないことがモデル事業開始以前から意識されていた ものの、職リハも含めたこのセンターには、そのための人とシステムが資源として存在していた。それは障害者につい て医療から福祉までの、別の言い方をすれば診断から社会復帰までの一連のサービス提供の経験があり、このセンター 内でも自己完結的に試行事業を実施できることが展望されたからに他ならない。脊損に代表されるこれまでの大きな障 害者支援の取り組みに加えて、高次脳機能障害と言う新たな課題に向けてこの経験に鑑みて臆することはなかった。
 モデル事業に加わったのは全国12地域の地方自治体であり、それは北海道・札幌市、宮城県、千葉県、埼玉県、神奈 川県、岐阜県、三重県、大阪府、岡山県、広島県、福岡県・福岡市・北九州市、名古屋市であった。どの自治体の委員 も実に熱心であり、各自治体における奮闘は国リハとしても後に引くことはできないような環境が構成されていき、国 リハ職員の奮闘につながっていったことは事実である。その結果として高次脳機能障害診断基準、高次脳機能障害診断 ガイドライン、高次脳機能障害標準的訓練プログラム並びに標準的社会復帰・生活・介護支援プログラムが作成された 。さらに高次脳機能障害に関する医学的リハビリテーションが平成16年度から診療報酬の対象となり、18年度改正に当 たりその内容に一層の充実を見た。
 しかし未だ12地域のことであり、これらの成果物を当該支援事業の全国展開に向けて役立てるには新たに高次脳機能障害支援普及事業を、障害者自立支援法に基づく地域生活支援事業の一環として実施する必要があった。この新事業がこの11月からいよいよ本格実施されることになり、全都道府県に地方支援拠点機関の設置と相談支援コーディネーターの配置が求められ、当センターは「全国高次脳機能障害支援普及拠点センター(仮称)」に位置付けられることになっている。そのようにして当センターは今後も継続して高次脳機能障害者を支援する活動に参画することになった。
 さて、障害者支援に関して当センターに向けられた社会からの要請は高次脳機能障害ばかりではなく、新しい課題がそれこそ次から次へと続くと考えられる。それは3障害の枠から見てこのセンターでは馴染みの薄い種別のものであることもあろうし、病院の診療科レベルでこれまで関与が薄い種別のものであることもあり得よう。しかし、このセンターが診断から社会復帰までの一連のサービス提供を成し得る特質をもつ機関であることを思えば、今後とも取り組むことができる課題はいくつもあろう。モデル事業を振り返ると、さらに新たな取り組みをするだけの人とシステムがこのセンターにはあるように思えてならない。