リハ医療における脊髄損傷患者のQOL
〜メンタルヘルス関連QOL尺度(MQS)の作成とその信頼性・妥当性の検討〜

研究所 障害福祉研究部 南雲直二
病院 看護部 宮坂良子・新井龍子・野田みゆき

キーワーズ:メンタルヘルス関連QOL尺度、脊髄損傷、リハビリテーション医療


1.目的

 リハビリテーション医療は患者のQOLを高めるのか? また、高めるためにはどのようにしたらよいのか? そうした疑問に答えるべく、我々は心理的アプローチとして、メンタルヘルス関連QOL尺度(Mental Health-related Quality of life Scale;MQS)を作成した。今回、MQSの信頼性、妥当性、ならびに脊髄損傷患者と健常者の比較結果について若干の知見が得られたので報告する。

2.対象

 2000年7月から2001年4月までに当センター病院に入院した脊髄損傷患者36名(男性29,女性7;平均年齢37歳)。ただし痴呆、脳損傷、および精神疾患を伴う者は除外した。なお健常対照は一般企業および医療従事者125名(男性29,女性96;平均年齢39歳)。

3.方法

(1)MQS

 MQSは“健康でない”心理状態(以下ネガティブ項目とする)を測る17項目と“健康な”心理状態(以下ポジティブ項目)を測る21項目の合計38項目からなる。ネガティブ項目は恐怖、不安、うつ、自己過小評価など、臨床で比較的多く見られるものをDSM―W(精神症状の診断と統計マニュアル第4版)などを参考として作成した。ポジティブ項目は、自己評価、対人関係、能力、幸福感などである。回答形式はリカート式の4件法を用いた。
 ネガティブ項目にはマイナスの符号を与えるため、その得点分布は0〜−51点となる(ネガスコア)。ポジティブ項目にはプラスの符号を与えるため、その得点分布は0〜63点となる(ポジスコア)。なお両スコアは共に点数が低いほどより不健康な心理状態を示す。


(2)MQSの信頼性

 再テスト法で行った。その間隔は3週間とした。脊髄損傷者には入院4〜5日経過後に最初のMQSを実施した。


(3)MQSの妥当性

 ネガスコアとポジスコアに分けたことの妥当性をについて、Self‐rating Depression Scale (うつの重症度を測る自己記入式のスケール;SDS)とVisual Analog Scale(痛みの主観的評価スケール;VAS)との相関から検討した。

4.結果

(1)MQSの信頼性

 脊髄損傷者におけるMQSの1回目と2回目の平均得点および相関係数はネガスコア(-16.5,-16.1;r=.76)、ポジスコア(37.8,39.7;r=.74)であった。健常者では(ネガスコア(-13.7,-13.9;r=.78)、ポジスコア(42.1,42.0;r=.83)であった。


(2)MQSの妥当性

 脊髄損傷者のMQSの各種スコア(1回目)とSDSの相関係数はネガスコア(-.46)、ポジスコア(-.33)であった。ネガスコアの相関係数は有意であった。同様に、VASとの相関係数はネガスコア(-.30)、ポジスコア(-.04)であった。いずれも有意ではなかった。


(3)損傷患者と健常者のMQSの比較

 健常者を対照として、入院時の脊髄損傷患者のMQSを比較した。t検定の結果,健常者と比べて入院時の脊髄損傷患者のネガティブスコア,ポジティブスコアはいずれも有意に低かった(t(159)=2.14,p < .05;t(159)=2.62,p < .01)。

5.考察

(1)信頼性

 健常者、脊髄損傷患者ともに、3週間のテスト‐リテストの結果から高い信頼性が得られた。しかし、健常者と脊髄損傷者を比較すると脊髄損傷患者の相関係数が若干低い値であった。別の成績からみると、脊髄損傷患者は、入院後3週間でADLは有意な改善を示した(例えば平均バーサルインデクスは44.7と60.2)。おそらくこうした影響が心理状態に変化を与えたのであろう。


(2)妥当性

 SDSはネガスコアと有意な相関を示し、ポジスコアとの相関は有意ではなかった。しかも、相関係数はネガスコアの方がポジスコアよりも高かった。また、VASはネガスコアと相対的に相関が高く(ただし有意な差ではなかった)、ポジスコアとは相関が低かった。SDS、VASは共に精神症状を測るものである。従って本研究結果は、ネガスコアが不健康な心理を反映し、ポジスコアは健康な心理を反映している可能性を示唆しているものと言えよう。今後は例数を増やして妥当性を検討する予定である。


(3)健常者と脊髄損傷患者の比較

 健常者と脊髄損傷患者の比較で両スコアは共に有意に低かった。今回の結果から推すとMQSはうつ傾向の影響を受けやすいことが明らかにされているので、脊髄損傷患者は入院時にうつ傾向を示す者が少なくないと考えられる。この他にも不安状態の影響も考えられるので、さらに臨床的な観察を行いながら、その差を生みだしている要因を明らかにしたい。




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