聴覚障害者の「自己発生音」評価法に関する検討

更生訓練所 佐藤徳太郎・森本行雄・菅原美杉・会田孝行
研究所 感覚機能系障害研究部 林良子・中島八十一
東北大学大学院工学研究科 佐藤洋

1.はじめに

 家の内外などでさまざまな生活活動に伴って発生する音(自己発生音)は、静かな音環境においてしばしば環境騒音として指摘されることもある。特に聴覚障害者にとっては、その音が聞こえないために、日常の動作自体に不安を感じることも多いと報告されている。そこで「自己発生音」に対する評価法を確立するために、前年度から行っている聴覚障害者の「自己発生音」に対する意識調査結果の中から、聴覚障害者が日常生活において特に不安に感じている場面を抽出し、実際に産出される「自己発生音」の計測を行った。

2.対象者と方法

 健聴成人4名(男性2名、女性2名)を対象に、国立身体障害者リハビリテーションセンター敷地内にあるモデル住宅にて騒音レベルの計測を行った。計測の対象となった動作は、「机をたたいて人を呼ぶ」、「椅子を押し引きして動かす」、「寝室の引き戸を閉開する」、「廊下を走る」、「急いで階段を昇り降りする」の5つであった。1度の計測では各動作とも5回ずつ行い、個人差及び再現性を調べるため、日を改めて計5度計測を行った。計測は、居間、寝室、和室、二階、階段の4地点に固定して設置された普通騒音計(RION NL-06)を用いて行った。各動作場所の至近距離(1 m)にも常に1台設置して計測した。

3.結果

 個人による差は見られたものの、健聴者の各動作における騒音レベルの平均は、至近距離からの計測においても53.1dB以下であった。最高騒音レベルは「椅子の押し引き」および「引き戸の閉開」において大きかった(それぞれ63.1dB、61dB)。各被験者とも、5回の動作における騒音レベルは安定していた(SD=4dB)。

4.まとめ

 健聴成人による「自己発生音」の騒音レベルは動作ごとに安定した値を示し、最高でも65dB以下におさまる傾向が示唆された。また、椅子の移動、戸の閉開、階段の昇降など騒音レベルの高くなりやすい場面も特定することができた。今後は、健聴成人のデータを増やすとともに、聴覚障害者による「自己発生音」についても併せて測定し、「自己発生音」の実態を調査し、その評価法を確立していく予定である。




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