外傷性脳損傷者の職業リハビリテーション
〜WAIS-R下位項目による分析を中心に〜

更生訓練所 指導部 小熊順子・菅野博也・石渡博幸・佐藤徳太郎

 本稿では職業訓練コースと帰結とを組み合わせた4群とWAIS-R成人知能検査結果との関連を調査、分析したので報告する。
 対象は昭和54年から平成11年までの間に、一般リハビリテーション課程に入所した外傷性脳損傷者128人。4群は職リハ・就職群50人、職リハ・非就職群18人、職能・就職群18人、職能・非就職群37人である。職能訓練後職リハへの移行者は職リハに含め、訓練未決定修了者は除外した。 WAIS-R成人知能検査は言語性、動作性、全検査の各IQと知識、数唱、単語、算数、理解、類似、絵画完成、絵画配列、積木模様、組合せ、符号の11の下位項目について分析した。
 結果は次のとおりである。WAIS-R全検査IQの平均値では職リハ85.2、職能76.9、就職82.8、非就職79.6で全体の平均値は81.3であった。4群と各平均IQとの関連では、動作性IQについて職リハ・非就職群85.7と職能・非就職群74.2の2群間の差が11.5と最大で、言語性IQは職リハ・就職群90.3と職能・就職群83.0でその差は7.0であった。統計による分析では、動作性IQにおいて職リハ・就職群と職能・非就職群の2群間に1%水準で有意差がみられた。次に4群とWAIS−R下位項目との関連をみると、職能・非就職群は11項目すべてにおいて職リハ・就職群の平均評価点を下回り、9項目が7点台で符号のみが4.5と極端に低かった。職リハと職能を有意に二分する項目は絵画配列・組合せ・符号で、符号は職リハ・就職群と職能・非就職群とを有意に二分する項目でもあった。各下位項目平均評価点で類似が9.4と最も高く、符号が5.6と最も低くその差は3.8で、符号は他10項目との間に1%水準で有意差がみられた。以上、4群とWAIS-Rとの関連をまとめると、帰結および訓練コースには動作性IQが有意に寄与し、特に符号の平均評価点の低さが動作性全体の平均IQに影響を及ぼしているのではないかと考えられる。
 WAIS-Rの考案者ウェックスラーは器質性脳疾患患者の符号の成績は悪く類似問題の平均得点よりも3点以上低いと述べているが、本調査においてもその差は3点でウェックスラーの研究報告とも一致した結果となっていた。本研究は外傷性脳損傷者の職業リハビリテーションの帰結や訓練コースに寄与する要因をWAIS-Rとの関連でみてきたが、知的水準だけではなく下位検査のプロフィールで示される知的構造の乖離状況の把握も重要な鍵となっていることが示唆された。




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