高次脳機能障害にともなうコミュニケーションの問題について
〜高次脳機能障害コミュニケーショングループの試み〜

病院 第二機能回復訓練部 三刀屋由華・餅田亜希子・白坂康俊・結城幸枝・岡本裕子

 脳損傷によって生じる言語・コミュニケーション障害として、失語症や運動障害性構音障害に加え、近年、「認知−コミュニケーション障害」と呼ばれるものが取り上げられるようになってきた。「認知−コミュニケーション障害」とは、種々の言語的・非言語的認知処理に生じた障害によるコミュニケーション行動の変化のことである。言語におけるForm(形態)とContent(内容)の側面の障害である失語症に対して、右半球症候群や痴呆の患者、また、頭部外傷後に様々な認知障害を呈している患者が、言語の形態と内容には明らかな障害を認めないにも拘らず、言語のPragmatic(語用論的)な側面や社会言語学的な側面に障害を持つことがある。このような患者は、機能的、社会的コミュニケーション行動が、受障前と比較して複雑かつ多様に変化していることが多く、そのことによって社会復帰に支障をきたすことも考えられる。しかしコミュニケーション行動については、臨床的にはこれまで主観的に記述するにとどまっており、これを数値化するなどして、変化を把握する必要性は高まっていると思われる。
 本発表では、病院第二機能回復訓練部において行ってきた、「認知−コミュニケーション障害」患者を対象とした「コミュニケーショングループ訓練」の内容およびコミュニケーション行動の評価の試みを紹介する。また、その評価結果を参考に本人およびご家族に働きかけを行った1症例の経過について報告する。最後に、これまでの試みから、コミュニケーション行動の評価として、数値化が可能な評価法を用いることの有効性が示唆されたこと、一方、評価法の妥当性や信頼性について検討の必要があることについて考察し、言語療法における「認知−コミュニケーション障害」患者を対象とした評価・訓練のあり方について今後の課題を明らかにしていきたいと考える。




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