求心性視野狭窄をもつロービジョン者に対する歩行訓練効果の測定

学院 小林章・鎌田実

1.目的

  本研究では求心性狭窄という視野障害をもった人が白杖歩行訓練を受けた場合、どれだけ健常者時代の歩行に近づけるかを示すことを目的とする。

2.方法

 白杖歩行技能修得済みの本センター視覚障害学科学生10名(男性3名・女性7名,平均年齢24.9歳,SD=2.02)を被験者とした。求心性狭窄のシミュレーション(高田巳之助商店製,+4D付加)を優位眼のみに装着し、他眼は遮蔽した。試行は時間条件2(日中・夜間)、白杖条件2(有・無)、視野条件3(3・5・10度)の12試行に晴眼条件2(日中・夜間)を足し、合計14試行をランダムに行った。信号待ちが生じた場合は計測を停止した。夜間には暗順応レベルを一定に保つために、試行開始前に15分間赤系遮光眼鏡をかけさせた。試行終了直後に「不安感」についての内省をとった。
 歩行コースはセンター西門から新所沢駅西口階段下までとした。試行時の白杖使用は不安な時のみに使用することとした。階段昇降時には手すりは使用しないこととした。

3.結果

 歩行所要時間はシミュレーション未装着時を1として少数第三位までの比に換算し、被験者内計画による3要因分散分析を行った。
 コース全体の結果を見ると、白杖不使用時は日中と夜間の歩行速度に差が生じ( F(1,9)=8.93 p < .05)、夜間歩行時には白杖を使った方が速く歩ける( F(1,9)=10.91 p < .01)といえる。視野と白杖の関係においては、視野3度では白杖を使った方が有意に速く歩き( F(1,9)=27.17 p < .01)、視野5度では速く歩ける傾向が見られた( F(1,9)=4.11 p < .10)。歩行コースには歩道、住宅街、準繁華街、駅ロータリー、階段、駅コンコースなどが含まれている。この中で夜間と昼間で差が見られたのは歩道と下り階段部分のみであった。視野3度ではすべての場所で白杖を使った方が有意に速く、特に上り、下り階段部分では視野5度でも白杖を使った時が有意に速かった。

4.考察

 今回の試行は被験者が歩き慣れたコースで行った。未知、障害物、階段等の要素が増えることで結果が変わると推測できる。さらに、網膜機能が低下しているロービジョン者の場合、白杖を使わない夜間のパフォーマンスは一層落ちると予測される。また、白杖はパフォーマンス向上の機能を果たすだけではなく、不安感を軽減することが内省報告により示唆された。




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