不全頚髄損傷患者の上肢機能検査得点と食事・整容・更衣動作の関係

病院 第一機能回復訓練部 大塚進 ・森田稲子・井上美紀
山本正浩・野月夕香理・伊藤伸
深澤佳世

【はじめに】
 不全頚髄損傷患者では上肢機能の障害が大きく、上肢を用いた日常生活が困難になることも多い。
 また、不全損傷は機能改善が多くの場合に認められることから、その上肢機能の変化とADLの関係を把握することが必要である。
 今回、我々は上肢機能検査(以下MFT、そのスコアをMFS)を不全頚髄損傷患者に対して経時的に実施し、ADL(食事・整容・更衣) との関係を検討したので報告する。

【対象】
 95年以降、当院に入院し継続的に作業療法を実施した不全頚髄損傷患者47名。原因は外傷に限定し、初回のFIMで認知機能項目の合計が30以下の者は除外した。 開始時点での平均年齢は48、7歳(SD14.3歳)。
 Frankel分類別では、Cが21名、D26名。性別は男37名、女10名。開始時における受傷からの日数は、平均244日、SD 206日。 退院・終了までの平均検査回数は6.0回、SD2.1であった。

【方法】
 当院データ・ベースシステムにより、入院後2週以内の初回検査とその後4週毎の検査が退院・終了まで継続された。 上肢機能はMFSの合計点を、ADL はFIM食事、整容、更衣(上衣)の下位得点を用いて検討を行った。

【結果】
   47名、左右合計94の上肢における初回MFSの平均は50.7、SD 25.9、終回のMFSの平均は63.9、SD 25.5。 初回と終了時の平均値の差はT検定により有意であった。 改善なし、もしくは低下したのは11肢のみであり、83肢は改善を示していた(改善量の平均15.1、SD9.6、最小3から最大50、最頻値9)。
 FIMを下位得点1から4までの要介助群、5の準備・監視群、6,7の自立群の3群に分け、MFS(良側肢)分布の初回と終了時間の変化をみると、 食事では、5の準備・監視群で上限値が88から78へ、下限値が38から28へといずれも低下し、要介助群の上限値も69から44へ低下していた。 上衣では、5の準備・監視群の上限が100から91へ、下限値が78から56へ低下し、6の自立群の下限値も72から59へ低下していた。 整容では5の下限値が上昇していたが、3例と少なかった。
 全体的にはMFSもFIMも上昇していることを考慮すると、準備・監視群もしくは自立群のMFS下限値が低下していることは、動作訓練の効果や、 ポータブルスプリングバランサー等の機器や装具・自助具の提供・使用訓練等の効果により、自立度の向上がより低い機能の上肢に拡大したものと推測できる。




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